〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 

2011/04/02 (土) ベ ー ト ー ヴ ェ ン (四)

○『エリーゼのために』 17歳の少女に捧げる

 ベートーヴェンといえば交響曲第5番 『運命』 か 『エリーゼのために』 がもっともよく知られている作品である。この 『エリーゼのために』 を捧げた女性は、当時17歳のテレーゼ・マルファッティである。この時、ベートーヴェンは40歳。肖像画からもうかがい知ることが出来るように、テレーゼは麗しい気品のある女性で、ベートーヴェンは彼女に純粋な女性の理想を求めたのである。
テレーゼとの関係を述べるためにはジョヴァンニ・マルファッティについて話を始めなければならない。彼はイタリア人の医師で、ベートーヴェンの臨終のときに立ち会った医師である。彼の兄の娘がテレーゼである。 『エリーゼのために』 という作品の自筆譜をこのテレーゼが一時所有していたことから、ベートーヴェンがテレーゼのために作曲したと考えられている。
ベートーヴェンがこのテレーゼを知るのは、グライヒェンシュタインを介してである。テレーゼの魅力に彼が心ときめかせたのはグライヒェンシュタイン宛ての次の手紙から知ることが出来る。
「彼女のところのものはなんでも好きなのです。それは傷のようなものだとも言うことが出来ます。意地の悪い人はそれの触れてぼくの心を痛めますが、それはまた彼女の手で癒してもらえるのです」
そして1810年、18歳のテレーゼに結婚を申し込む。ベートーヴェンはこのような手紙をしたためる。
「あなたは私のことをおそらくいつかは思ってくださると信じたいのです。ですからこれを機会に申し上げます。あなたのことを私はどうしようもないほどに深く愛しています。また尊敬しております」
しかし、ベートーヴェンの求婚はもとより身分違いのものであり、マルファッティ家としてはベートーヴェンの音楽を愛好し、芸術家ベートーヴェンは尊敬するとしても、結婚の対象とはもとより考えていなかった。そしてテレーゼはこの求婚の6年後の1816年にドロスディック男爵と結婚する。 

「クラシック 名曲を生んだ恋物語」 著:西原 稔 発行所:講談社 ヨリ
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