藤
裏 葉 (七) | 今日は四月八日の灌仏会
で、誕生仏を寺からお移しして、導師の僧が遅く参上しました。日が暮れて女君たちから女童ねのわらわ
たちをお使いにして、御布施などを宮中の儀式と同じように、それぞれに届けられました。 宮中の儀式にそのままならって、諸家の若殿たちも大勢参集しているので、導師は、格式ばった帝みかど
の御前の儀式の時よりも、かえって妙に緊張して、臆しがちになるのでした。 夕霧の宰相は心も上の空にそわそわと、めかしたてて身嗜みだしな
みを整え、女君のところへお出かけになります。 格別の深い関係ではなくても、お情けをおかけになっている若い女房たちの中には、そんな御様子を見て、恨めしいと思う者もいるのでした「。 長年の恋の積もる思いも加わって、今は言うことのないお二人は、水も洩らさぬ睦まじさで「いらっしゃいます。 主人の内大臣も、近くで見れば見るほど見栄えのする婿君を、可愛いと思われて、たいそう大切にお扱いになります。こちらから折れて出た口惜しさは今でもやじゃり残念に思っていますけど、何のわだかまりも残りそうになく、夕霧の宰相の御性格が¥生真面目一方で、長年ほかの女にお心を移すこともなく、姫君お一人を守り通されたのを、世荷も珍しいことだと感心なさり、お二人の仲をお認めになるのでした。 弘徽殿こきでん
の女御にょうご の御様子よりも、雲居の雁の姫君の御器量は華やかで美しく申し分ないので、継母ままはは
の北の方や、お付きの女房たちなどは、妬ねた
んで、気に入らないように言ったりしていますが、そんなことは何の構うことがありましょう。姫君の実母の按察使あぜち
の大納言だいなごん の北の方なども、こうなった御縁を嬉しく思っていらっしゃいます。
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