男君は夢ではないかとお思いになるにつけても、ここまでよくも辛棒
し、婿君として認めさせた自分をたいしたものだと誇らしく思われたことでしょう。 女君はほんとうに心の底から恥ずかしく思っていらしゃいます・前よりもずっと女らしく御成長なさったその御容姿は、いよいよ何の不足もないお美しさです。夕霧の宰相は、 「恋死にして、世間の噂の種にもなりかねなかったわたしを、内大臣はあわれとお思いになって、こうまでお心を解いて二人の仲をお許し下さったのでしょう。それなのに、あなたはそんなわたしの気持を分かって下さらないとは、ずいぶんひどい御態度ですよ」 と恨み言をおしゃいます。 「弁の少将が謡った
『葦垣』 の歌の心は、お分かりでしたか。あの人はひどいですね。 『河口』 の関の荒垣をいくら守ったて、抜け出して二人はように逢ってしまったという歌で、やり返してやりたかった」 とおっしゃいますと。女君は、とても聞き辛くお思いになって、 |
浅き名を
言ひ流しける 河口は いかがもらしし 関の荒垣あらがき
(昔あんな浮き名が流されたのは 一体どの関守がどんなふうに わたしたちの秘密を外に 洩らしたのかしら 関のあなたでは) |
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「情けのうございます」 とおっしゃる御様子が、たいそう無邪気で可愛らしく見えます。夕霧の宰相はかすかにお笑いになって、 |
もりにける
岫田くきだ の関を 河口の 浅きにのみは
ほせざらなむ (あんな浮き名が洩れたのは 河口の関を守っていた 内大臣のせいなのに まるでわたしのせいのように 責めないでほしい) |
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「積年の辛い思いも、とても切なくて、苦しいものですから、今は何の分別もつきません」 と、酔いにかこつけて、いあかにも苦しそうにして、夜の明けるのも気づかない顔をしていらっしゃいます。 女房たちがお越しも出来かねて当惑していますと、内大臣は、 「いい気になって朝寝をしているものだ」 と、文句をおっしゃいます。それでも夜が明けきらないうちには、お帰りになりました。 その寝乱れた朝の宰相のお顔は、なかなか見甲斐のあるものでした。 |