真 木 柱 (十八) | 髭黒の大将のもとの北の方は、月日のたつにつれて、あまりにも情けない事の成行きに、すかkり気持もふさぎ込み、ますます正気も失い呆けたようになっていらっしゃいます。 髭黒の大将の方では、一通りのお世話は今でも何かにつけ、こまごまと気をつけておあげになり、男のお子たちは、前と変わらず大切に可愛がっていらっしゃるので、北の方はすっかり縁を切るでもなく、経済面では、以前と同じように頼りにしていらっしゃいます。 真木柱の姫君を、大将はたまらなく恋しがっていらっしゃるのですが、宮の方ではあれっきり会わせておあげになりません。 式部卿の宮家では誰も彼もが大将を許さず恨みつづけて、ますます親子の仲を隔てるようにばかりなさるので、姫君はこの父君を、幼いお心の内に心細く悲しく慕っていらっしゃいます。弟の男君たちはいつも父君のお邸に会いに行って、玉鬘の君の噂なども、何かにつけて自然姉君になさいます。 「わたしたちをとても可愛がってやさしくして下さいます。風流なことがお好きで、一日中色々楽しく暮していらっしゃいますよ」 など話しますので姫君は羨ましくて、こういうふうに自由に振る舞える男に、どうして生まれて来なかったのだろう、と嘆いていらっしゃいます。ほんとうにどうしたわけでしょうか。男にも女にも、人に物思いをさせる玉鬘の君でいらっしゃいます。
その年の十一月に、玉鬘の君は、たいそう可愛らしい男のお子さえお産みになりました。髭黒の大将は、すっかり思い通り幸せになったと御満悦で、このお子をこの上もなく大切になさいます。 その間の御様子などは、申し上げなくても御想像がおつきでございましょう。 父君の内大臣も、申し分ない御運勢が自然玉鬘の君に開けてきたと、お喜びになっていらっしゃいます。玉鬘の君は、内大臣が日頃格別に大切にしていらっしゃる弘徽殿の女御にも、御容姿などは少しもひけをおとりになりません。柏木の中将もこの玉鬘の君を心から慕わしい姉君として、親しくしていらっしゃいます。それでもやはり何かすっきりしないような気持も時折お見せになって、いっそ宮仕えをしたからには、帝の御子
をお産みだったらよかったのにと、内心お思いになります。この若君の可愛らしいにつけても、 「今でもまだ皇子みこ
たちがお生まれになっていないのを、帝はお嘆きでいらっしゃいますが、もしこのお子が帝の御子みこ
だったら、どんあに面目をほどこしたことだろうに」 などと、あまりにも身勝手なことを考えたり、おっしゃったりしています。 尚侍ないしのかみ
としての公務は、自邸で規定に従ってお勤めになっていらっしゃいますが、参内なさることは、このまま沙汰止みになってしまいそうです。それはまあそうなるのが当然でしょう。 |
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