「こんなことを帝がお耳にされたら、畏
れ多い。当分は世間に知れ渡らぬよう、内密にしておくように」 と、源氏の君が御注意なさるのですが、髭黒ひげくろ
の大将はとても隠し通すことはお出来になりません。お通いになりはじめてから日数が経ちましても、玉鬘たまかずら
の君は、まるで髭黒の大将に打ち解ける御様子もなく、こうなったことを情けない前世からの宿縁だったのだと、ただ一途に心外で、辛いと思いつめ、いつまでも鬱ふさ
ぎこんでいらっしゃいます。 髭黒の大将はそれを実に情けないと思います。しかしやはり深い前世の因縁があったればこそ、自分が女君を手に入れることが出来たのだと、身にしみて喜んでいらっしゃるのでした。見れば見るほど申し分なくすばらしく、これ以上はない玉鬘の君の御器量やお姿を、危うくも他の男に取られるところだったと、思うだけでも胸がつぶれて、石山寺の観音様も、弁のおもとも一緒に並べておし頂きたいと思っています。 ところが女君に方は、手引きをした弁のおもとをお嫌いになったので、弁のおもとは出仕も差し控え、里に謹慎しています。とんとうにこれまで、たくさんお気の毒な方々がそれぞれに、様々の御苦労をなさるのを見てきましたが、髭黒の大将のようなあまり愛情の移らない人に、かえって石山寺の観音様の霊験もあらたかだったというのでしょうか。 源氏の君もこうなったことが不本意で、まったく残念だと口惜しがっていらっしゃいますけれど、もはやどうしようもないことでした。 どなたもどなたも、こうして髭黒の大将の通ってくることを御承認なさったことなので、今更話をもとに返して自分ひとり反対してみせるのも、髭黒の大将に対してお気の毒であり、筋違いな話だとお思いになりました。
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