御子息や親しい殿上人を大勢引き連れて、内大臣が三条の宮に入っていらっしゃった御様子は、堂々とした御威勢で、いかにも頼もしそうに見えます。 内大臣は背丈がお高い上に、程よくお肥
えになっていて、たいそう貫禄があり威厳が具そな
わっています。お顔付きといい、歩き方といい、さすがに大臣らしい御様子です。葡萄染えびぞ
めの御指貫さしぬき に、桜の下襲したがさね
の裾きょ を長々と引いて、殊更らしくゆったりと荘重に構えられたお振舞いは、何とまあきらびやかで御立派な、と思わずにはいられません。 それに対して六条の院の源氏の大臣は、桜の唐渡りの錦の御直衣のうし
に、濃い紅梅色の袿うちき を重ねて、うちくつろいだ皇子みこ
らしいお姿は、ますます喩たと
えようもないほど御立派で、光り輝くようなお美しさではこちらが勝っていらっしゃいます。内大臣がこんなふうに派手派手しく装いたてていらっしゃっても、比べるよう案なわけにはいかないのでした。 お供をした内大臣の御子息たちは、次々といかにも美しい御兄弟ばかりでした。今では、藤大納言とうだいなごん
、東宮とうぐう の大夫だいぶ
、などと呼ばれる内大臣の異腹の御兄弟たちも、皆それぞれ御立派に昇進なさってお供をしていらっしゃいます。わざわざお呼び寄せになったのでもないのに、世評の高い貴い家柄の殿上人の、蔵人くろうど
の頭とう や、五位の蔵人、近衛の中将、少将や、弁官べんかん
などで、人柄がはなやかで立派な方々が、十人余りも自然に集まって来ておられるので、いかにも盛大な感じです。またそれに次ぐ普通の貴族なども大勢います。 盃さかずき
が度々廻ってきて、皆酔ってくるにつれ、口々に、誰よりも幸福な大宮の御生涯を話題にし合うのでした。 内大臣も久しぶりの源氏の君との御対面に、昔のことを自然に思い出されます。離れていてこそ、つまらないことにも競争心が起ころうというもので、こうして差し向かいになっては、お互いに若かった昔のなつかしく、忘れられない様々が胸にこみ上げてきます。いつのまにかすっかり昔のように隔てがとれて、長い歳月にわたる昔や今の思い出話に、花を咲かされるのででした。 そのうちに日が暮れてきました。内大臣は源氏の君にs盃をお勧めになって、 「こちらから伺わなくてはいけなかったのsですが、来いというお呼びがないのにと、遠慮していました。今日、こちらへお運び下さったのを知りながら、もしも参られなかったら、一段と御不興を蒙こうむ
ったことでしょう」 と話されます。源氏の君は、 お叱りを受けるのはわたしの方でしょう。どんなに御不興かと思うことが、たくさんありまして」 などと、意味あり気におっしゃいます。さてはあのことかと、内大臣はお察しになりますけれど、面倒なことになると思われて、恐縮した様子をよそおってかしこまっていらっしゃいます。 「昔からあなたとは公私にわたって、すべて事の大小に拘かか
わらず、心を打ち割って話し合ったものでした。翼を並べるようにして力を合わせ、朝政の輔佐もしようと思っていましたのに、歳月がたつと、昔考えていたのとは違うような不本意なことが、時々おこりまして。ま、それもうちうちの私事わたくしごと
ですが。わたしの方では、およそもとの気持にまったく変わりはないのです。さしたることもしないで年をとってしまうにつれて、昔のことばかりが恋しくなりましたのに、近頃ではお目にかかるのもすっかりまれになってしまいました。御身分柄、いかめしい威儀をつくる必要も当然とは思いますが、わたしのような親しい旧友には、その御権勢もほどほどになさって、気楽に訪ねて下さればよろしいのにと、時々はお恨みもしたものです」 と、源氏の君はおっしゃいます。内大臣は、 「たしかに昔はしげしげと親しくお会いして、怪け
しからぬほど失礼して、馴れ馴れしく御一緒させていただきました。まったく心を許しきったお付き合いでしたが、朝廷にお仕えした当初は、翼を並べるなどとは、とても考えられず、数ならぬ身でただもう有り難いお引き立てを蒙りました。おかげでふつつかな身で、こんな地位にまで昇り、お仕えしておりますにつけても、御恩を考えないわけではありませんが、年のせいで、おっしゃるようについだらしなくなりまして、失礼なことばかりが多くなります」 など、お詫びを申し上げます。 |