行 幸
(七) | 内大臣も、源氏の君がこうして三条の宮にお越しになられたとお聞きになって、 「大宮は人手も少なくひっそりしている中に、大勢のお供を従えた御威勢盛んな源氏の大臣を、どんなふうにお迎えしたことか。前駆の家来たちをもてなしたり、源氏の大臣のお席を整えたりする気に利いた者もあそこにはいないだろう。夕霧の中将も、今日源氏の大臣のお供をつとめているだろうし」 などと驚かれて、御子息たちや、親しくお出入りしている殿上人たちを急遽
差し向けられます。 「お菓子やお酒などを粗相のないように取り繕つくろ
ってさし上げなさい。わたしも伺わなければならないところだが、それではかえっていたずらに騒がしいことになるだろう」 などとおっしゃるうちに、大宮からお便りが届きました。 六条の大臣がお見舞いにいらして下さいましたのに、こちらは人少なで淋しく、はたの見る目もいかがかと思うし、また畏おそ
れ多くもありますので、大げさに、わたしがこうお願いしたからというふうではなく、さりげなくお出で下さいませんか。直接あなたにお目にかかって、お耳に入れたいことがおありもようです」 と、書いてありました。 「一体、何ごとだろう。雲居くもい
の雁かり の姫君の一件で、夕霧の中将の失恋の恨み言を、大宮へ愁訴したのだろうか」 などと、気を廻していらっしゃいます。 「大宮もこうして余命もあまりお長くはない御様子なのに、このことだけはと、熱心におっしゃるし、源氏の君がおだやかに一言、怨み言をはっきり口に出して下さったなら、とやかく反対することはとても出来ないだろ、夕霧の中将が縁談を断られても平気な顔で姫に気のなさそうにしているのを見ると癪に障るし、この際、よいきっかけがあるなら、大宮や源氏の大臣の言葉に従ったふりをして、二人の結婚を許そう」 と、お考えになります。また、大宮と源氏の君が御相談してこの件についておっしゃるつもりだなと想像すると、この縁談にいよいよ反対のしようもなさそうです。しかしまた、どうしてすぐに承諾してといものかと、たまらわれるのは、実に困った意地の強い御性分でいらっしゃいます。けれども、 「大宮がこのようにおっしゃるし、源氏の君もお逢いになろうとお待ちになっていらっしゃるとか、どちらにしても畏れ多いことだ。とのかく参上した上で、あちらの御意向を伺ってから、それに従おう」 と、心をお決めになり、御装束に特別お心づかいなさって、前駆の人数なども控えめにしてお出かけになりました。 |
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