行 幸
(五) | 源氏の君は、太政大臣となられた今は、以前にも増して、つとめてひっそりとお忍びでお出かけになりましても、どうしても行幸
に劣らないほどの万事がいかめしくなります。御容姿はますますお美しさが輝きを増すばかりで、この世のものとも思われません。 久々に珍しくお目にかかられた大宮は、御病気の悪さもすっかり拭い去られるようにんららて、起きて坐っていらっしゃいます。御脇息きょうそく
に寄りかかって、弱々しそうに見えますけれど、お話しなどはよくなさいます。源氏の君が、 「それほどお悪くはいらっしゃらないのに、あの夕霧の中将が、あわてふためいて大袈裟おおげさ
に悲しみますので、どんなにお悪いのかと御心配申し上げておりました。近頃は宮中などにも、特別なことでもない限りは参上もいたしませず。朝廷にお仕えする者らしくもなく邸に引き籠こも
っておりますので、万事に勝手がわからなくなって、何かとおっくになってしまいました。わたしより年輩の人が、腰が折れ曲がるほどまでに年老いて出仕しているような例が、昔も今もあるようですが、わたしは生まれつきよくよく愚かな性分の上に、さらに無精者ときているのでしょう」 などとお話しなさいます。大宮は、 「老衰の病やまい
とは分かっているのですか、病気のまま歳月も過ぎ、今年になりましてからは、いよいよ快復もおぼつかないように思われますので、もう一度こうしてお目にかかり、お話しする機会もなくて終るのかと、心細く思っておりました。それなのにこうしていらして下さって、今日という日でまた少し、寿命が延びた気がいたします。今はもう死んでも惜しいような年でもございません。頼みにする夫や娘にも先立たれ、年老いて一人生き残っている例を見るのは、人のことでも、ほんとうにいやなことだと感じておりましたから、あの世への旅立ちの支度に、自然に気がせかされてならないのです。この中将が、ほんとうに真心こめて不思議なほど世話をしてやさしく心配してくれるのを見るにつけましても、いろいろ思いが残って、今まで生き永らえているのでございます」 と、ただもう泣きに泣いてふるえ声になられるのも、愚かしくみっともない感じがいsますけれど、それも無理からぬことなので、ほんとうにお気の毒に思われます。 |
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