源氏の君はこのように玉鬘（たまかずら） の姫君のためには、すみずみ迄（まで） お心づかいなさって、姫君の将来のために何とかよい途（みち） はないものかと、あれこれ御思案なさいますけれど、お心底には、姫君への恋慕が <音無しの滝> のように流れています。姫君にはそれが厭（いと） わしくお気の毒なことです。これでは紫の上の御推察どおりに、御身分にふさわしくない軽々しい浮（う） き名（な） も流れそうでした。
「あの内大臣は、何事につけても、けじめをはっきりさせ、少しでも曖昧（あいまい） なことは、そのままでは我慢がお出来にならないといった御性分なので、もしこういうことを知って、何の遠慮もなくひとり決めに、この自分をきっぱりと婿扱いなどなさったりしたら、それこそ世間の物笑いにもなるだろう」
などと、源氏の君は反省していらっしゃいます。
その年の十二月に、大原野（おおはらの） へ行幸（ぎょうこう） があるというので、世間では一人残らずそれを見物しようと大騒ぎしています。六条の院からも、女君たちが、牛車（ぎっしゃ） を連ねて御見物にお出かけになります。
行幸の列は午前六時に御出発なさいまして、朱雀大路（すざくおおじ） から五条の大路を、西の方へ折れて進んで行きます。桂川（かつらがわ） の岸辺まで、見物の車がびっしりと並んで隙間もありません。行幸といって、いつもかならず盛大とは限らないのですが、今日は親王（みこ） たちや上達部（かんだちめ） も、みな特別に念を入れて、馬や鞍（くら） を整えられ、随身（ずいじん） や馬副（うまぞい） には容姿や背丈の美しい者を選んで、それぞれを美しい衣裳を着飾らせています。こんなことは、めったに見られない見事さです。
左右の大臣、内大臣、納言（なごん） より以下の人々は、またなおさら、一人残らずお供申し上げています。青色の袍（ほう） に、葡萄染（えびぞ） めの下襲（したがさね） を、殿上人（でんじょうびと） や五位、六位の人々までも着ています。
雪がほんの少しちらほら降って、道中の空の色まで、何とも言えず優美な風情があります。親王たちや、上達部なども、鷹狩にお加わりになる方々は、珍しい狩りの御装束を用意していらっしゃいます。近衛府（このえふ） の鷹飼（たかが） いたちは、まして世にも珍しい摺（す） り衣（ごろも） をとりどりに無造作に着ていて、格別の見ものです。
人々はまたとないすばらしい見物に我さきに争って出かけています。それほどの身分でない者が、粗末な脚弱（あしよわ） の車などで来て、車輪を押し潰されて、あわれな様子になったのもいます。
桂川の浮き橋のあたりなどにも、まだ場所が決まらず、風情を見てうろうろしている立派な女車（おんなぐるま） が多いのです。