とひとりごとを漏らすのでした。 西の対
の、玉鬘たまかずら の姫君の所では、昨夜、嵐が恐ろしくてまんじりともなさいませんでしたので、今朝は寝過ごして、今、ようやく鏡に向かっていらっしゃるところでした。 「大げさに先払いをしないように」 と源氏の君がおっしゃいましたので、ことさらひっそりとお入りになります。 屏風なども風のためにもな畳んで片寄せて、調度などが取り散らかしてあるところへ、朝日の光がはなやかに差し込んでくる中に、玉鬘の姫君は目のさめるような美しさですわっていらっしゃいます。 源氏の君は姫君のお側近くにおすわりになり、またいつものように、風のお見舞いにつけても、恋の愛のと、例のうっとうしい話しを、冗談めかしておっしゃいますので、姫君は聞くのも我慢出来ず情けない気持になられて、 「こんな辛い思いばかりをするのなら、昨夜の風に吹かれて、いっそどこかへ行ってしまいとうございました」 と、おむずがりになります。源氏の君は、さも面白そうにお笑いになって、 「風と一緒にどこかへ行ってしまわれるなど、軽はずみというものでしょう。そうなさるとしても、どこかお目当てのところがきっとおありにちがいない。だんだんわたしをお嫌いになるお気持がつのってきたのですね。無理もないことだけれど」 とおっしゃいます。玉鬘の姫君は、ほんとうに、思ったままをふっと口にしてしまったと、御自分でもお笑いになるそのお顔の色や、お顔つきが実に美しいのでした。 髪のふりかかった間から覗く頬が酸漿ほおずき
のようにふっくらとしているのが、可愛らしく見えます。目もとがあまり晴れやかで愛嬌がありすぎるのが、心持上品さに欠けるようです。それだけが欠点で、ほかには一点の非の打ちどころもありません。 |