常 夏
(八) | 内大臣は、北の対
にお引き取りになられたあの新参の近江おうみ
の姫君のことを、 「どうしたらよいものだろう。余計なお節介をして、迎えに行って連れて来ておいて、他人がこういろいろ悪口を言うからといって、今更送り返すのも、いかにも軽率で、馬鹿げた狂態と思われるだろう。しかしこうして邸の中に押し込めておくだけでは、本気で大切に面倒を見る気があるのかと、世間が噂していると聞くのもいまいましい。弘徽殿こきでん
の女御にょうご のお側などに宮仕えさせて、それなりの道化として笑い物にしてもらおうか。女房たちがひどく不器量だと悪口を言っているようだが、しかし器量はそう言われるほど、みっとみなくもあるまい」 などと、お考えになって。、弘徽殿の女御に、 「あの近江の君をお側におお仕えさせましょう。見苦しいような点は、年寄りの女房などに命じて、遠慮なく叱しか
って教えていただいて面倒を見て下さいませんか。若い女房たちの噂の種にして物笑いにだけはして下さらないように。何しろひどく軽率で困り者です」 と、苦笑しながら申し上げます。女御は、 「どうして、そんなに格別ひどい人でしょう。柏木かしわぎ
の中将などが、それはまたとなく素晴らしい人だと思い込んで宣伝していたのに、実際それほどでもなかったよいうだけのことでしょう。父上が、こんなふうに、やかましくお騒ぎになるので、本人がきまり悪くなり、一つにはそれで恥ずかしくてためらっているのではありませんか」 と、こちらが気のひけるような御様子で仰せになります。この女御の御容姿は、すべてがこまやかな趣にある美しさではなく、たいそう気位が高く澄明なかん字だけれど、やさいい情味も加わって、味わいのある梅の花が開きそめた、明るい朝ぼらけのような感じです。まだお言い残しのことがたくさんおありのように、ほほえんでいらっしゃる御様子は、他の女たちとは志賀ってとりわけお美しいと、内大臣は御覧になります。
「柏木の中将は、まあ、何と言っても、まだ世間知らずで思慮が浅く、こんなことになったのも調査の不十分さによるもので」 など、おっしゃるにつけても、お気の毒なのは、近江の君の御評判というものです。
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