藤
袴はかま | 藤袴は蘭の異名。夕霧は玉鬘に蘭の花を贈った。夕霧の歌の、 | 同じ野の
露にやつるる 藤袴 あはれはかけよ かごとばかりも |
| から題名が出る。 源氏三十七歳の八月から九月まで。 玉鬘は、尚侍としての宮仕えを誰からも勧められているけれど、内心ひとり悩んでいた。 もし帝寵を受けるような事態になれば、先に入内している弘徽殿の女御や秋好む中宮に、どう思われるかしれない、その上、実子でないと公にして以後は、源氏が前にも増して露骨に迫るようになっている。内大臣は源氏に遠慮して、今も親らしい態度をひかえている。 このままではいつか源氏との色めいた噂が立ち、恥をかくことになるだろう。 誰にも相談できない悩みに、夕暮の空を見上げて沈んでいるところへ、夕霧が帝の意向を伝える使いとして訪ねて来た。二人とも大宮の死に対して、孫の立場で裳に服し、鈍色にびいろ
の喪服を着ている。 夕霧は同じ喪服にかこつけて、蘭の花を御簾の中へさし入れ、自分の慕情を訴える。 玉鬘は親子から愛を語られ、うとましくなるばかりで、奥へ逃げ込んでしまった。 夕霧は源氏と玉鬘の、怪しく見えた親密さを思い出し、二人の仲を疑った。 源氏のところに戻って、世間の噂をたてにとって、源氏の玉鬘への本心を問いただそうとする。 内大臣が、源氏の本心は玉鬘に懸想しているけれど、六条の院にこのまま置いて、自分の女の一人として扱うには、他の女君たちの嫉妬の対象にされ、可哀そうなことになるから、今になって、捨てるつもりで実父に押し付け、通り一遍の宮仕えをさせて、その上で尚ひそかに関係を続けてゆこうというのが源氏の腹だと、人にも話している。と、夕霧は現時に告げ、一体本心はどうなのかと迫る。 これまでただ生真面目で、融通の利かない、面白味のなかった夕霧にしては、突如として、鋭い舌鋒になって迫っている。 源氏は、さすがに長い年月親しく付き合った内大臣の観察眼の鋭さにたじたじとなり、そんなことはあり得ないと、夕霧に苦しい言い訳をする。 夕霧は玉鬘に、軽率に意中を打ち明けたことを後悔し、ひたすら忠実な奉仕者になろうとつとめていた。 参内は十月と決まり、柏木は父内大臣の使者として玉鬘を訪れたが、玉鬘は気分が悪いと称して、他人行儀なもてなしをして帰す。 髭黒の大将は、同僚柏木を通して熱心に求婚している。東宮の伯父で、将来は源氏や内大臣に替って権力を得る人物として、内大臣は好意を持っているが、行幸の日に見かけた大将の、いかつい、髭の濃い風貌を嫌っている玉鬘は、見向きもしない。 九月には想いを寄せている求婚者たちから、次々恋文が来るが、玉鬘は見ようともせず、ただ螢兵部卿の宮だけには返歌をし、宮は非常に喜んだ。 |
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