〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-[』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻五) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/07/03 (日) 

 わき
文中の野分の日のことから、この題がつく。
前篇と同じ年の秋八月。
秋好む中宮の御殿では、特別に植えた秋の草花が美しく咲き乱れている・中宮は六条の院へ里下がりして秋の庭の風情に慰められていた。
そんなある日、突如として野分が吹き荒れた。例年になり荒れ模様で、さすがの六条の院のすばらしいお庭も、花はなぎ倒され、垣根もほどけてしまっていた。
この日の夕方六条の院を見舞った夕霧は、偶然、廊下の衝立ついたて 越しに、妻戸の開いている隙間から覗いて、廂の間に坐っていた紫に上を見てしまった。春の曙の霞の間から撹乱と咲いている樺桜のような美しさに、夕霧は目がくらみそうになる。源氏はたまたま明石の姫君の方へ見舞いに行ってそこに居ない。やがて帰ってきた源氏は、夕霧に紫の上を見られたかも知れないと思う。
夕霧はその夜に大宮を見舞い、その邸に泊まる。翌朝、まだ野分の名残の雨が降っていた。夕霧は六条の院の花散里を見舞い、春の御殿に行くと、源氏と紫の上はまだ寝所にいて、睦言を交している気配が洩れてくる。起き出してきた源氏は夕霧の落着かぬ表情から、やはり夕霧に紫の上が見られてしまったことを察知した。
源氏もその日は野分の見舞いに女君たちを訪ね、夕霧はそれに従った。明石の君の所は、いかにもそっけなく義理めいた見舞い方をする。源氏は玉鬘の所では、今化粧を終えたばかりの玉鬘を抱き寄せ、例の冗談とも本気ともつかぬ求愛をする。その状況を見た夕霧はあまりの馴れ馴れしさに驚愕する。父と娘の態度とは思えない様子に、玉鬘まですっかり馴らされてしまい、抵抗もせず懐に抱かれてもたれかかっているのだった。玉鬘の美しさは露を帯びた夕映えの八重山吹のようであった。
花散里は冬物の衣裳作りに忙しそうにしていた。つづいて明石の姫君を訪ねた夕霧は、姫君をかいま見てみごとに咲きそろう藤の花房を見るような気がした。そこで夕霧は紙と硯を借り、女たちに恋文を書き、馬の助にそれを託した。
夕霧がまた大宮の邸に戻ると、内大臣が来合わせていた。内大臣は近江の君で苦労してる話しを、大宮に訴えている
源氏物語 (巻五) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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