篝
火び | 同じ年の初秋。 | 篝火に
たちそふ恋の 煙けぶり こそ 世には絶えせぬ
炎ほのほ なりけれ | 行方ゆくへ
なき 空に消ちてよ 篝火の たよりにたぐふ 煙とならば |
| による。 近江の君の噂を、世間じゅうがなにかにつけて物笑いの種にしているのを源氏は耳にして、内大臣が不用意に近江の君を引き取り、人前にさらして落度をかばってもやらず、孤独な立場に追いこんでいるのを、内大臣の何でもけじめをつけたがる性格のせいだと非難して、近江の君に同情している。 玉鬘はそうした話しを聞き、近江の君と同じ境遇の自分が、源氏に引き取られたために、何不自由なく守られていることを改めて感謝する。源氏も親らしからぬ不埒な恋などをしかけてきたけれど、決して、思いにまかせて乱暴に玉鬘を自分のものにしようとはしない自制心の強さに玉鬘は感動し、徐々に源氏に心を開き、なじんでいく。 初秋の夕月夜、玉鬘を訪れた源氏は、琴を枕にして玉鬘と親しく寄り伏している。庭には篝火が焚かれている。そn煙にたとえて、源氏は切ない恋の思いを歌に託して訴える。 それでも、自分の恋は自制してそれ以上の深い関係にはならない。そこへ夕霧を訪ねて来た柏木の中将と弟の弁の少将がこちらへ訪ねて来る。彼らを西の対へ招き、琴や笛の合奏をする。御簾みす
の中からそれを聞き、身近に実の兄弟たちを見る玉鬘の感慨は深い。真実を知らない柏木は玉鬘への恋を意識して、和琴に格別の想いをこめて弾いている。 ごく短い短編小説の体裁。一向に進展しない玉鬘の結婚話や、危険をはらむ源氏の、これも動きの止まった恋の成行きに、読者はじらされたりはらはらさせられる。篝火の炎の中にぼうっと浮かび上がった琴を枕にした二人の添寝の姿は、絵巻物を見るようななまめかしくてあでやかに読者の目の中に焼きついてくる。 |
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