〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-[』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻五) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/06/23 (木) 

ほたる (二)
この帖には、有名な源氏の物語論が展開される。つまり文学論であり、それは作者紫式部の文学論と思っていいだろう。玉鬘は田舎育ちなので、六条の院で見る数々の物語が面白くてならない。六条の院の女君たちは長い梅雨の無聊を慰めるため、物語に読みふけったり写したりしている。玉鬘も例外ではない。
ある日、源氏が訪ねて行くと、玉鬘は物語に熱中していて、それを書き写していた。源氏はその様子を見て、玉鬘を相手に自分の物語論を話す。
「物語は作りもので根も葉もないこととわかっていても、上手な作者の手になると本当のように思って感動する。日本紀などの歴史書はほんの一部にすぎず、物語こそ神代からこの世に起こったあらゆることが書いてあり、善悪いずれも、この世に生きていく人の有り様の、見逃しに出来ないことや、聞き流しに出来ない心に残ったことを書いてある。善人ばかり書いたり、あまり誇張した表現はかえって興をそぐ」
という見解を示している。虚構と見せかけた小説の方が、事実を書いたという歴史書よりも人生の真実を書いているという意見である。
紫の上とも、明石の姫君に読ませる物語について功罪を語り、あまり色恋沙汰ばかり書いたものは教育上見せない方がいいなどと話す。姫君に読ますものを源氏が厳選して、それを清書させたり、絵に描かせたりする。
源氏は自分の経験から、夕霧を紫の上に近づけることをつとめて警戒して遠ざけている。
夕霧は相変らず雲居の雁を恋しく想いつづけていた。柏木は玉鬘への取り持ちを頼むが夕霧はすげない。
内大臣は自分の娘たちが期待通りにならないのを見て悲観し、源氏の新しい娘出現の噂に刺激され、昔、夕顔との間に生まれた娘の行方が気にかかりだす。夢を見て、夢占いに判じさせると、内大臣の気づいていない子を誰かが養女にしているといわれる。
源氏物語 (巻五) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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