朝 顔がお
| 見しをりの
つゆ忘られぬ 朝顔の 花の盛りは 過ぎやしぬらむ |
| の歌から題がつけられている。 源氏三十二歳九月から雪の積もった冬の日までを語る。 朝顔の斎院は、父桃園式部卿の宮の薨去の服喪で、斎院を下り、九月となって自邸の桃園の御所に移る。ここには叔母の女五の宮も同居している。源氏は女五の宮の見舞いにかこつけて桃園邸を訪れる。女五の宮は桐壺院の末の妹で、兄に桃園式部卿の宮、姉に大宮
(葵の上の母) がいる。 女五の宮はもうずいぶん老けこんでいて、朝顔の前斎院が、源氏と結婚していればよかったのになどという。 朝顔の歌の贈答などは、さり気なくするものの、朝顔の姫宮は、源氏の誘いには応じようとしない。世間でも古い二人の間柄を公認しているが、源氏としては浮名ばかりで、当の朝顔の姫君は一向になびかないのであせってくる。かといって、全くつれないばかりでもなく、朝顔の姫君は、適当な応答はするので、源氏は蛇が生殺しにされているように思い苦しむ。 紫に上は、源氏が朝顔の姫君への恋を再燃させていることに感づき、他の女に対してとは違う嫉妬と危機感に悩まされる。 朝顔の姫宮に心を奪われている源氏は、宮中泊まりが多くなり、家にいてもぼんやり物思いに沈み、手紙ばかり書いている。紫の上は、もしかしたら、自分は朝顔の姫宮に源氏を奪われ、邸も追われるのではないかと不安がる。 紫の上の悩んでいるのに気づき不憫に思いながら、源氏は、つれない相手に惹かれる恋心を、どうしてもこらえることが出来ない。 女五の宮は、ますます耄碌もうろく
してきて、源氏と話している最中に、鼾いびき
をかきだすという始末。そこで源氏は昔、たわむれあった源げん
の典侍ないしのすけ が出家しているのに出逢う。相変らず色っぽいしなをつくり甘ったるい声を出して、歯の抜け落ちた巾着口で、言い寄る源の典侍に源氏はぞっとして逃げる。 源氏は朝顔の姫宮に、
「せめて一言でも、嫌だという言葉でもいいから、直接聞かせて欲しい」 とせがむけれど、宮姫は色よい返事も態度もしない。うっかり源氏の誘惑に負けて、六条の御息所のような憂目だけは見たくないと思っているのだった。 雪の月夜、源氏は女童たちに庭で雪転がしをさせた。その様子から、故藤壺の中宮が雪の山を造らせて女房や女童たちを遊ばせたことをゆくりなくも思い出す。 その夜、源氏は紫に上に、藤壺の宮、朝顔の姫宮、朧月夜の尚侍、花散里の君等の人物品評をして聞かせる。 その直後の夢に、源氏は藤壺の宮の幻を見る。藤壺の宮は自分のことを紫に上と噂したことを怨み、 「自分たちの秘密の恋が世に洩れて、今、死後の苦界で、苦患に責められて辛い思いをしている」 と、訴える。夢が覚めても源氏は苦しくて涙が止まらない。 その後、寺々で、藤壺の宮の地獄の苦患を解くよう、御誦経などさせて祈祷する。 現世では、気位高く慎ましやかだった藤壺の宮が、死後、女らしい恨み言を言いに源氏と紫の上の睦んでいる閨ねや
に顕われるというのがあわれである。 朝顔の姫宮は、源氏に唯一、失恋を味あわせた誇り高い女として、存在価値を光らせている。 |
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