登場人物の呼称 | この第四巻には、
「薄雲 」 「朝顔あさがお
」 「乙女おとめ 」 「玉鬘たまかずら
」 「初音はつね 」 「胡蝶こちょう
」 の六帖が収められている。源氏三十一歳冬から三十六歳の初夏までの話しである。 須磨から京に返り咲き、前以上の栄達に輝く源氏に、またしても暗い翳かげ
りがさしはじめる。 誰よりも強力な味方であった葵あおい
の上うえ の父、太政大臣が他界し、引きつづき永遠の恋人藤壺の宮も病死する。二人は源氏にとっては、精神的にも物質的にも何より強力な支えであっただけに、源氏の悲嘆は大きい。父、桐壺院の死以来の辛い死別の経験であった。 ここで太政大臣というのは、かつての左大臣であり、源氏の須磨流謫るたく
の頃は、政敵右大臣一派に圧されて、政界を退いていた到仕ちじ
の左大臣とも呼ばれていた人である。 こういうふうに、源氏物語に中では、長い歳月に渡って登場人物の位階が次第に進むので、それによって呼称が変わっていく。原文にはその都度、その時の位によって呼び名を変えているが、今回の新訳では、読者の混乱を防ぐため、出来るだけ分かり易い呼称にした。一例は、源氏の位が次々変わる度、中将、大将、内大臣、太政大臣、最後は准太上天皇まで登るが、一番出番の多い源氏はほとんど
「源氏の君」 で通した。また、他の人物は、前の何々という説明を、うるさくない程度入れてある。 |
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