胡 蝶
(四) | 毎日、明けても暮れても。こんなとりとめもないお遊びが始終催されていて、御機嫌よく愉
しそうにお過ごしなので、お仕えする女房たちも、自然何の屈託もないようで、中宮も紫の上もお互いにお手紙のやりとりをしていらっしゃいます。 西の対の玉鬘たまかずら
の姫君は、あの踏歌とうか の折の御対面以来、紫の上ともお手紙を交わすようになしました。 心遣いの深さということではまだ何とも言えませんが、お見受けしたところでは、あれこれよき気がついて行きとどき、人なつこい御性質と見え、気のおけないお人柄なので、どなたも皆、この姫君に好意を持っていらっしゃいます。恋文をさしあげる殿方もとても大勢いらっしゃるようですが、源氏の君が、そう易々やすやす
と婿君をお決めになれるものでもありません。御自身のお気持の中にも、きっぱりと父親代わりの立場で通せそうもないやましいお心がおありなのか、いっそ実父の内大臣に姫君のことを打ち明けてしまおうかなど、御思案なさる折々もあります。 夕霧の中将はいくらか親しく、姫君の御簾みす
のもとなどにも近づいたりしますので、姫君もじきじきお返事なさったりしながらも、内心気がひけていらっしゃいます。けれどもそうした対応が当然の実じつ
の御姉弟と、女房たちは思っていますし、夕霧の中将はまた、いかにも生真面目で堅苦しいお方なので、色っぽい気持などはお持ちではありません。 内大臣家のわか君たちは、この夕霧の中将に連れられて六条の院に来られては、何となく意味ありげに悩ましそうに徘徊はいかい
なさるのですが、玉鬘の姫君は、色恋の気持からの切なさではなく、実の兄弟に言い寄られるのが内心では辛くて、本当の父親の内大臣に、自分がこうしているのを早く知っていただきたいと、人知れず願っていらっしゃいます。けれどもそんなふうには、ちらとも源氏の君にお漏らしにはなりません。ただひたすら、源氏の君になついて頼りきっていらっしゃるお気遣いが、可愛らしく初々ういうい
しいのです。それほど似ているようでもないのですが、やはり、亡き母夕顔の面影をとても偲ばせるものがあって、母君にはなかった才気が、この姫君にはそなわっていらっしゃいます。
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