この姫君のお住みになるお部屋を、どこにしようかと源氏の君はお考えになります。紫の上のいらっしゃる南の町のお邸には、空いている対
のお部屋などもありません。紫の上が大層な御威勢で、女房も多く集め、余す所なく使いきっていられるので、人の出入りも多く人目にも立つだろう。秋好あきこの
む中宮のおいでになる西南の町は、こういう人が住むのに向いていて閑静だけれど、そこに住めば、中宮にお仕えしている女房たちと同列に、見なされるかも知れないと御心配になるのでした。 少し陰気なようだけれど、東北の町の花散里はなちるさと
の君きみ のお住みのところでは、西の対が書庫になっているのをよそへ移して、そのあとへ姫君をとお考えになります。 花散里の君と御一緒に住んでも、花散里の君は控え目な気立ての優しいお方なので、仲睦まじく話し合って、お暮しになれるだろうとお決めになりました。 紫の上にもはじめて、あの遠い昔の夕顔の君との恋をお打ち明けになるのでし。紫の上は、こうして長い間お心に秘めていらっしゃったことを、お恨みになります。 「それは無理ですよ。生きている人のことだって、聞かれもしないのに誰が自分から話すでしょう。こうした機会に何もかも打ち明けてしまうのは、あなたを誰よりも格別に大切に思っているからこそですよ」 とおっしゃって、たいそう感傷的に昔のことをお思い出しになられるのです。 「他人の身の上にも、たくさん見たことですが、それほど愛し合っていない仲でも、女というものの愛執の深さをたくさん見聞きしてきました。それでもう決してみだりに浮気めいた心などはおこすまいと決心していたのに、自然、そうもゆかなくて多くの女と付き合ってしまった。その中で、ここrからただもう可愛くてならなかった点では、この人をおいてはほかにはなかったと思い出されるのです。もし今まで生きていたら、西北の町の明石の君と同じくらいには、面倒を見ずにいられなかったでしょう。女の気質というのは十人十色ですね。その女は才気や気働きの利くという点では劣っていたけれど、ほんとに品があって愛らしい人だった」 などとお話しになります。 「そうはおっしゃっても、明石の君と同列にはお扱いなさらなかったでしょうよ」 と紫の上がおっしゃいます。やはり明石の君のことを不愉快に思い、こだわっていらっしゃるのです。けれど、明石の姫君がたいそう可愛らしい様子で、無邪気にお二人の話しを聞いていられるのがおよしいので、紫の上は、源氏の君が明石の君を大切になさるのも、仕方のないことだと思い直されるのでした。
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