玉 鬘
(十三) | 右近は六条の院に早速参上しました。姫君にめぐり逢ったことを、源氏の君にそっとお話しする機会があるかも知れないと思って、急いだのです。 車を御門の中に引き入れるなり、あたりは格別広々として、退出したり、参上したりする車がおびただしく往き来しています。自分のような物の数にも入らない身で出仕するのも、気後れするような、立派できらびやかな御殿です。 その夜は、源氏の君の前にも伺わず、あれこれ思案しながら寝ました。 翌日、昨夜里から上った上臈
や若い女房たちの中から特に右近を選んで、紫の上がお召しになりましたので、晴れがましく思います。源氏の君も右近を御覧になられて、 「どうして里居さとい
がそんなに長引いたのかね、珍しいことではないか。真面目人間が打って変わって若返るということもあるものだ。何かしゃれたことがあったのだろう」 など、例によってお返事に困るような冗談などをおっしゃいます。右近が、 「宿下がりいたしまして七日を過ぎてしまいましたが、しゃれた話など、わたしには一向にありそうもございません。山歩きをいたしまして、お懐かしい人を見つけてまいりました」 と答えます。 「それは誰か」 と源氏の君がお聞きになりました。すぐその場で申し上げると、紫の上にお話しする前に君だけに内緒でお話ししたことになり、後でそのことを紫の上がお聞きになったら、御自分に別け隔てをしたとおとりになりはしないか、などと思案にあまって、 「いずれ後ほどに」 と言ううち、ほかの人々が参りましたので、その時は言いさしてしまいました。 夜になってお部屋の灯火などをおつけした後、源氏の君と紫の上がお二人でうちつくろいでいらっしゃる御様子は、見るからにものでした。 女君は二十七、八なはおなりでしょうか。今を盛りと輝くばかりにお美しくおなりです。しばらく間を置いて拝見する右近の目には、里下がりしていた間に、さらにまたつややかな美しさがお加わりになったように感じられます。あの初瀬の姫君を、たいそう美しくて紫の上に劣るまいなどと思ったけれど、あれは気のせいだったのか、やはり紫の上のお美しさはこの上もないのです。不運な人と幸運な人では、やはりこうも違うのかと、つい比較してしまいます。 |
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