玉 鬘
(十四) | 源氏の君はお寝
みになるので、脚を揉も ませるために右近をお召しになります。 「若い女房はこんなことは辛気しんき
臭がって嫌がるようだ。やはり年寄は年寄どうしこそ気が合って仲よくし易いものだね」 とおっしゃいますので、女房たちはくすくす笑っています。 「あらそうかしら、誰だって、親しくお使い下さるのを厭がるものですかねえ。変な冗談でおからかいになるから、それが困るのですよね」 などと皆で言い合っています。源氏の君は、 「紫に上も、年寄どうしが仲よくし過ぎたら、やはり御機嫌を損じるだろうよ。嫉や
きもちなど焼きそうもない御気性とはとても見えないから、危ないものだ」 など、右近にひそひそ話されてお笑いになります。その御様子がとても魅力的で、この頃では冗談をわざとおっしゃって人を笑わせるような愛嬌も加わっていらっしゃいます。 今では宮中に出仕して、政務に追われるという御身分でもなく、世間のことにあくせくなさることもなく、毎日閑のど
かにお過ごしなので、ただ他愛もなく御冗談をおっしゃって、女房などの心をためして面白がっていらっしゃるあまりに、こんな年寄りの古女房にまでお戯れなさるのです。源氏の君が、 「さっき、探し出し、めぐり逢ったといったのは、どういう人なの。尊い修行者とでも仲よくなって連れて来たのか」 とお聞きになりますので、右近は、 「まあ、人聞きの悪い。はかなくお亡くなりになった夕顔の露に御縁のある方を、見つけまして」 と申し上げます。 「それはまた感動的なことではないか。一体長い歳月。どこにいたのか」 とおっしゃいますので、ありのままに申し上げにくくて、 「辺鄙な草深い山里にいらっしゃいました。昔の女房も何人かは変わらずそのままお仕えしていましたので、あの頃のことを話し合いまして、たまらなく悲しい思いをいたしました」 などと申し上げています。 「もういい。事情を御存じないお方もおいでだから」 とお隠しになります。紫の上は、 「まあ、面倒なこと。わたしは眠たいので、何も聞きたくはありませんのに」 とおっしゃって、お袖で耳を塞ふさ
がれます。源氏の君は、 「顔や姿は、あの夕顔に劣らないか」 などとおっしゃいます。 「お子さまといっても、必ずしも母君ほどのお美しさだとは限るまいと思っていましたが、母君よりもずっとお美しく御成人なさっていらしゃいました」 と申し上げますと、源氏の君は、 「それは興味が惹ひ
かれる話しだね。誰くらいの器量かな、この方くらいかな」 と、わざと紫に上と比べるようにおっしゃいます。右近は、 「まさか、それほどでは」 と申し上げますと、源氏の君は、 「ずいぶん自信あり気だね。わたしに似ているなら、心配はいらないけれど」 と、まるで実の親らしい言い方をなします。 |
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