国々から田舎の人たちが大勢参詣に来ていました。その中にこの大和
の国の国守の北の方も、お詣りしていたのです。供回りもいかめしく、威勢を振るっているのを見て、あの三条が羨んで言いますには、 「南無大慈大悲の観音様、ほかのことはお願い申しません。どうかわたしどもの大切な姫君が、太宰の大弐だいに
の北の方か、でなければ、この大和の国の受領ずりょう
の北の方になられますようにお願い申し上げます。そうなればこの三条らも身分相応に出世しまして、必ずお礼詣りはいたしましょう」 と、額に手を当てて一心にお祈りして座り込んできます。右近は、縁起でもないことを言うものだと呆れて、 「何てまあ、ひどく田舎者になってしまったものね。姫君の父君の頭の中将様は、あの頃だって帝の御信望がどれほどすばらしかったことでしょう。まして今は、天下の政治をお心のままにされる内大臣ですよ。そのお方のれきっとしたお子でいらっしゃるのに、その御立派な姫君がこともあろうに受領の妻になって、つまらぬ身分に決まってしまわれるなんてあるものですか」 と言いますと、三条は、 「まあ、まあ、お静かに。おだまりなさい。大臣のやらのこともちょっとお待ちになって。大弐のお館やかた
の北の方が、清水しみず の観世音寺かんぜおんじ
に御参詣なさった時の御威勢は、帝みかど
の行幸みゆき にだって劣っていましたか。何も知らないくせに、おお、いやだわ」 と言って、なおさら手を額に押し当て、一心に拝んでいます。筑紫の人たちは、三日間参籠しようと心がけています。右近は、それほどのつもりではなかったものの、こんなついでにこそ、姫君にゆっくりお話し申し上げようと思って、自分も三日参籠したいと、世話役の僧を呼んで頼みました。願文に書いた願いごとの趣旨など、こうした僧は、こまごまと心得ていますので、いつものように、 「例の藤原の瑠璃姫るりひめ
というお方のために、御布施をさし上げます。よくお祈りして下さい。そのお方を最近やっとお見つけいたしました。その願解がんほど
きのお礼詣りもいたしましょう」 と右近が言うのを、そばで聞いていた乳母やちも感無量です。法師は、 「それはまことに結構なことでございます。拙僧が怠りなくお祈りいたしました効験でございます」 と言います。 まったく騒がしく、どうやら一晩中勤行はつづいているようでした。 |