乙 女
(十八) | 年の暮れには正月の晴れの御装束のお支度など、大宮は今年は若君お一人の分だけに、かかりきって御用意なさいます。幾組みも新しい御装束をたいそう御立派にお仕立てになったのを御覧になるにるけても、それがみな六位の装束なので、若君は憂鬱になられるばかりで、 「元旦などには、とても参内するつもろはありませんのに、どうしてこんあに急いで御用意なさるのでしょう」 と申し上げます。大宮は、 「どうして参内しないでよいことがありましょう。まるでよぼよぼの老人のような元気のないお口ぶりじゃありませんか」 と仰せになります。若君は、 「年寄りではないのに、何をする気力もすっかりなくなった感じです」 とひとりごとを言って、涙ぐんでいらっしゃいます。姫君のことを思い悩んでいるのだろうと、たいそうお心が痛んで、大宮も悲しそうに眉をおひそめになるのでした。 「男はどんなに身分の低い者でさえ、気位は高く持つべきだと言います。あまりに憂鬱に沈み込んで、そんなに悲観なさってはいけません。そんなにめそめそなさることがあるでしょうか。縁起でもない」 とおっしゃいます。 「いえ、そのことではないのです。人から六位だなどと軽蔑されているようなので、これも一時のことと考えても、やはり宮中へ参るのも、気が重くて行きたくありません。亡き太政大臣が御存命でいらっしゃったなら、冗談にも人から軽蔑されるようなことはなかったでしょうに。父上は、遠慮のいらない筈の実の親ですけれど、実に他人行儀にわたしを突き放していらっしゃるので、住んでいらっしゃる所も、気軽に出かけて、親しくしていただくことも出来ません。東の院にお越しの時だけ、お側近くにまいります。西の対の花散里の方は、お優しくして下さいますが、実の母上さえ生きていらっしゃったなら、何のくよくよすることがあったでしょう」 と言って、涙のこぼれるのを紛らしていらっしゃる御様子が、ひどくお可哀そうなので、大宮はいっそうほろほろとお泣きになって、 「母に先立たれた者は、身分が高いにつけ低いにつけ、誰でもそんなふうに可哀そうなものですが、自然に持って生まれた宿縁によって、一人前に成人しさえすれば、軽んじる人もいなくなるものです。 だからあまり深く思いつめないようになさい。亡くなった太政大臣がせめてもうしばらく生きていて下さればよかったでしょうに。この上もない後ろ盾として、源氏の君にも亡き大臣と同様に頼りにしておすがりしていますが、思うようにいかないことが多いですね。内大臣の御気性も、並々の人とは違うと、世間では誉めそやしているようだけど、わたしに対しては、前々と違うひどい態度が多くなっていくので、長生きさえ恨めしくなります。その上、まだ生い先の長い若いあなたまでが、こんなふうに、たとえ少しでも、身の上を悲観していらっしゃるのでは、ほんとにもう、すべてが辛い世の中なのですね」 とおっしゃって、泣いていらっしゃいます。 |
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