乙 女
(十四) | 源氏の君は、今年の新嘗祭
の節会せちえ に、五節ごせち
の舞姫をお差し上げになります。これというたいした御用意をなさるわけでもないにですが、お供の女童めのわらわ
の衣裳など、期日も迫ってきたというので、急いでお作らせになりました。 東の院の花散里の君のところでは、参内の夜の人々の衣裳をお作らせになります。源氏の君は、べてのことに亘わた
ってお気を配られるのでした。 梅壺の中宮からも、女童や下仕えの女房の衣裳など、言いようもなく見事になさって源氏の君のところに差し上げられました。 昨年は、藤壺の女院の諒闇りょうあん
ため、五節なども停止になったのが淋しかったものですから、殿上人の気分も、今年は例年よりは、はなやかないと思っているらしい折柄なので、舞姫を差し出す家々のあちらこちらでも競争して、万事たいそう立派にこの上なく善美をお尽くしになるとの評判です。 公卿からは按察使の大納言に、左衛門の督、それに殿上人からの五節の舞姫は、今は近江おうみ
の守かみ で左中弁を兼ねている良清よしきよ
が差し上げました。舞姫たちはすべてそのまま宮中にお留とど
めになって宮仕えをするようにと、特別の帝の仰せ言ごと
のある年なので、娘をそれぞれ舞姫として差し上げるのでした。 源氏の君からの舞姫には、今は摂津せっつ
の守で左京さきょう の大夫だいぶ
を兼ねている惟光これみつ の朝臣あそん
の娘で、器量などたいそう美しいと評判なのをお召しになります。惟光は娘を深窓に隠しておきたかったので、迷惑なことに思いましたが、人々が、 「按察使の大納言は御側室の娘をお上げになるそうだから、あなたが大切な御秘蔵娘を差し上げたところで、何の恥ずかしいkとがあryだろう」 と責めますので、惟光は当惑して、同じことなら、そのまま宮仕えさせようかというつもりにしぶしぶなっています。 舞の稽古などは、自分の家で念入りに仕上げて、舞姫の介添えなど、身近に親しく付き添うべき者たちは、厳選して揃え、当日の夕方二条の院へ参上させました。 源氏の君も紫の上や花散里の方々にお仕えしている女童や下仕えの女房の中から、器量のすぐれた者をえお、見くらべて選び出されます。選び出された者たちの気持は、身分に応じてそれぞれ、とても誇らしそうです。 御前に召して帝が舞姫を御覧になる時の下稽古に、源氏の君は御自分の通らせてにようとお決めになります。そうして御覧になりますと、それぞれに皆、美しい女童の姿や器量に、誰一人落しようがなくお困りになり、 「もう一人分の舞姫の介添えも、こちらから差し上げたいぐらいだね」 などとお笑いになります。ほんの少し態度がいいとか、心づかいがすぐれているなどということで選に入ったのでした。 |
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