とうとう、叔母が乗り込んできて、自分の夫が太宰
の大弐だいに に出世したので、自分も九州へ行ってしまうから、一緒に行こうという。末摘花はその誘いに乗らない。しかし、あの仲のよい侍従までが、受領の甥と恋仲になり、男について九州へ去ってしまった。 さすがに淋しく悲しくて、末摘花は声をあげて泣く。それでも化物屋敷のような家に留まり、末摘花は源氏の訪れを独り待ちつづけている。 「蓬生」
の帖は、末摘花の無惨な零落の様子と、一途で純真な源氏への信頼ぶりを描いて、これだけでも一篇の名短編小説として読み応えのある佳品になっている。 これも忘れがちだった花散里を訪ねる途中、泥棒さえ素通りするような荒れ果てた邸の前を、通り過ぎようとした源氏は、藤の花の咲いている邸に何となく見覚えがあるような気がして、そこが末摘花の邸だと思い出す。 軒まで生い茂った雑草をかき分け、四年ぶりで再会した末摘花の純情ぶりに、源氏はひどく感動する。かたくななまでに自分を信じ通し、宮家の姫君としての誇りを失わず、鷹揚おうよう
に構えていた上品さに、真の貴族の精神を見て、源氏は感動するのだった。 源氏はこれまでの薄情のつぐないのため、人をやって末摘花の邸の雑草を刈らせ、邸の大修理をして、以前のように経済的な面倒の一切を見る。 人々は愕おどろ
いて、急に背き去った者まで、駈け戻って追従する。 人の世や人情の軽薄さが、末摘花の信の潔癖さと対比されて否応なく際立ってくる。作者の腕の振るいどころである。 節操のない恥知らずな世間の保身の立ちまわりの卑しさを紫式部が書けば書くほど、稀有けう
な末摘花の純真さが輝いてくるのである。 しかし、源氏はもう末摘花との性交渉は、よみがえらせとうとはしない |