〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-X』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻二) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/03/19 (土) 

みおつ  くし (一)
この帖では、朱雀帝は譲位し、十一歳の冷泉れいぜい 帝が即位する。藤壺と源氏の罪の子であることは、二人だけの秘密で、こうなれば、益々「二人は命に替えてもこの秘密を厳守しなければならない。そのことは暗黙の了解と強い絆で結ばれていた。
藤壺は准太上天皇じゅんだいじょうてんのうとなり、今は遠慮なく自由に参内して冷泉帝にも会うようになっている。源氏は内大臣に、隠居していた左大臣は、源氏に請われて摂政太政大臣に、またその子息たちも、それぞれめざましく昇進する。
即位式から一ヶ月ほどして、明石では女の子が誕生した。その報せに源氏はひどく喜ぶ。この姫君が将来国母となる可能性を見込んだからだ。乳母めのと を選び、子供の五十日い か の賀に間に合う様、乳母に数々の贈り物を持参させ、明石へ赴かせる。
このまま娘たちは捨てられるのかと悲嘆に暮れていた入道も、明石の君もほっとする。
源氏は紫の上に姫君誕生のことを打ち明ける。
「欲しいところに生まれないで、どうでもいいところに生まれて」
という源氏の言葉にも紫の上は慰められはしない。長く源氏と一つの家に暮して来た紫の上は、もう源氏の心の内に、この姫君が外戚としてのなくてはならない布石になることを、喜んでいるのを、充分察知していたからである。
なぜ紫の上に一人も子供を産ませなかったのか。ここにも作者の用意周到な作意を感じる。源氏を臣籍に下したように、紫の上にも子供を生ませないことが、物語の発展の上では欠かせない条件なのである。この明石の姫君を将来紫の上が引き取り育てる為に。
秋、源氏は、住吉神社に願ほどきの参詣をする。たまたま春秋二度、住吉参詣をする習慣だった明石の君も参詣した。海上から、源氏の一行の華々しさを眺めた明石の君は、想像以上に隆盛な源氏の権勢を目の当たりに見て圧倒され、声もかけられず、すごすごと明石に引き返す。後でその事を知った源氏は慰めの手紙をやる。
源氏物語 (巻三) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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