絵 合
(二) | お使者への御祝儀には、それぞれにふさわしい様々な物をお下しになります。源氏の君はどんなお返事をされたのか拝見したくてならないのですか、さすがにそうはお口に出されません。 朱雀院の御容姿は女にして拝見したいぐらいお美しいのですが、この斎宮の御様子もそれに不釣合いではなく、お年恰好もぐさわしくて、まことにお似合いと思われます。そころが帝
はまだ十三歳でたいそう子供っぽくていらっしゃって、斎宮は、九歳お年長になります。それなのに院の思し召しにさからってこんなふうに事を運んでしまったことを、斎宮も内心不快にお感じになっていらっしゃりはしないだとうかなどと、源氏の君は厭いや
な気を廻されて、胸を痛めていらっしゃいます。 それもいよいよ御入内が今日となっては、もう中止できることではありませんので、万事しかるべきようにお命じになり、御信任の厚い修理すり
の宰相さいしょう に、こまごまとお世話申し上げるようにお言いつけになって、参内なさいました。 源氏の君は朱雀院に気がねなさって、表立った親代わりというように思われないようにと、普通の御機嫌伺いのようの見せかけていらっしゃいます。 六条の斎宮のお邸には、昔からすぐれた女房たちが多かったのですが、いつもは里に下りがちだった者も、今はみな集まって来て、申し分のない望ましい雰囲気なのでした。 「ああ、亡くなった御息所みやすどころ
がおいでだったら、どんなにか仕甲斐のあることと思って、お世話をなさったことだろうに」 と、源氏の君は、昔の御息所の御気性をお思い出しになります。 「自分との関係をぬきにして、世間一般の目で見れば、いかにも惜しまれるすばらしいお人柄だった。あれほどのお方はめったにいらっしゃるものではない。ことに趣味教養の方面では、なんといっても抜群でいらっしゃった」 と、何かの折につけてはお思い出しになるのでした。
藤壺の尼宮もその夜は参内なさいました。帝は並々でなく美しいお妃が入内なさるとお聞きになりましたので、たいそういじらしく御心配していらっしゃおます。お年よりはずっとませて、大人びておいでなのでした。藤壺の尼宮も、 「こうした御立派なお方が入内なさるのですから、お心づかいを遊ばしてお会いになりますよう」 とおさとしになります。帝は内心、年上の方にお会いするのはきまりふぁ悪くはないだろうかと思っていらっしゃいます。 女宮はすっかり夜が更けてから参内なさいました。そのお方はほんとうに慎ましやかに、おっとりとしておられて、小柄で華奢きゃしゃ
な感じでいらっしゃいますので、帝は、ほんとうに美しい方だと、お思いになりました。 帝は、権中納言の姫君の弘徽殿こきでん
の女御にょうご とはお馴染でいらっしゃいますので、仲よしで可愛くて、気がねなく思っていらっしゃいます。この前斎宮は、人柄もたいそう落ち着いていて、気恥ずかしい感じがします。源氏の君が前斎宮に対しては、ことさら丁寧で重々しくなさるので、軽々しいお扱いは出来ないと、帝はお思いになるのでした。 夜のお泊りなどはお二方に平等になさっていらっしゃいます。それでも気のおけない子供っぽいお遊び相手として、昼間などお出かけになるのは、どうしても弘徽殿の方の方が多くなります。 弘徽殿の女御の父の権中納言は、心の中では、ゆくゆくは中宮にと期待して、姫君の入内をお願いしましたのに、前斎宮がこうして後から参内して、弘徽殿の女御と競い合うかたちになられましたのを、何かにつけお心穏やかではなくお感じのようでした。 |
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