と、ひとりごとのようにつぶやかれて、やはり車からお下りになりました。惟光はお足もとの露を馬の鞭
で払いながら、邸内に御案内申し上げます。雨の雫が秋の時雨しぐれ
のように木々の枝から降りそそぎますので、 「お傘がございます。ほんとうにあの <木こ
の下露は雨にまされり> という古歌そのままでして」 と惟光は申し上げます。 源氏の君の御指貫さしぬき
の裾は、じっとりと濡れそぼってしまったようです。昔でさえ、あるかないかわからないくらいだった中門などは、今はなおさら跡形あとかた
もなくなっていて、源氏の君がお入りになるというのに、全く恰好もつかないのですが、その場に居合わせて見ている者もないので、気がねないというものです。 |