ほどもなく元の官位から昇進なさって、源氏の君は定員外の、権大納言
になられました。源氏の君に連座して罷免ひめん
されていたしかるべき人々も、皆、次々元の官職を返していただき、晴れて世間に許されたのは、枯木に春が立ち返ったような心地がして、ほんとうにおめでたそうでした。 帝からお召しがあり、源氏の君は参内いたしました。帝の御前に伺候なさるお姿が、ますます御立派におなりで、どんなふうにしてあんな辺鄙な田舎のお住まいで、長い年月お過ごしになられたのだろうと、人々は思うのでした。女房などのうち、故桐壺院の御在位中からお仕えして、今では老いぼれてしまっている連中は、今更のように悲しさに泣き騒いで、源氏の君に感嘆の声をあげています。 帝も、慙愧ざんき
の念と、源氏の君の立派さに、気おくれさえお感じになられて、お召し物など、特に念入りにお整えになって出御しゅつぎょ
遊ばします。このところ何日も帝は御病気の気味でいらっしゃいましたので、たいそうご衰弱になっていられたのですが、ようよう昨日、今日あたりは、すこし御気分もおよろしくお感じなのでした。 しみじみとおふたりでお話をなさるうち、夜になりました。十五夜の月が美しく、あたりがもの静かなので、帝は昔のことを次から次へ、少しずつお思い出しになられて、お泣きになられます。何かと気弱になっていらっしゃるのでしょう。 「管絃の遊びなどもこの頃はしないし、昔聞いたあなたの演奏される楽の音なども聞かなくなってから、ずいぶん久しくなったものですね」 と仰せられますので、源氏の君は、 |
わたつ海に
沈みうらぶれ 蛭ひる の児こ
の 脚立たざりし 年は経へ にけり (蛭の児は三歳まで脚立たず
わたしの流浪もまた三年 遠い海辺にうらぶれて 蛭児ひるこ
のように足萎な えて 都恋しく過ぎました) |
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と申し上げますと、帝は実にしみじみと、可哀そうにも、恥ずかしくもお思いになって、 |
宮柱
めぐりあひける 時しあれば 別れし春の 恨みのこすな (国生みの神話の神々のように 別れても再会があるのです こうしてめぐりあった今は
昔の別れの春の恨みは もう忘れてほしい) |
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と仰せになるその御様子は、たいそう優雅でいらっしゃいます。 |