明 石
(十九) | 当の女君のお気持は、たとえようもなく悲しくて、こんな嘆きの様子を人に見られまいとして、心を静めようとするのですが、もともとが不幸せな身の上の、運のつたなさが原因なのだから、どうしようもないことです。源氏の君にうち捨てられる恨めしさは晴らしようもないのに、まだ源氏の君の面影がいつも目先にちらついて忘れようもないので、ただもう、ひたすら涙に沈んでいるくらいが、精一杯なのでした。 母君もどう慰めようもなく、困り果てて、 「いったいどうして、こんな気苦労の種になることを思いついたものやら、それもこれも、みんな偏屈な夫の言いなりになっていたわたしの失敗でした」 と言います。入道は、 「ああ、やかましい、黙んなさい。源氏の君がお見捨てになろうとしてもなれない事情もぱりなのだから、そうは言っても、娘のお腹の御子については、きっとお考え下さっていることだろう。まあ気を楽にして、お薬などでもお飲みなさい。全く縁起でもない」 と言ってみるものの、部屋の隅の方に引っ込んで、ものにもたれてしょんぼり坐っています。乳母
や母君などが口を合わせて、入道の偏屈ぶりをそしりながら、 「何とかして一日も早く、あの子の思い通りのお身の上にしてさしあげようと、長い年月、それを当てにして過ごしてきて、今ようやく思いが叶うかと頼もしく存じあげていましたのに、結婚のはじめから何というかわいそうな目に遭われることでしょう」 と、嘆くのを見るのも、入道はつらくてたまりません。ますます頭が呆けてきて、昼は日がな一日、寝てばかり暮し、夜はしゃんと起き上がって、 「数珠じゅず
がどこへいったか、わからない」 と、手をすり合わせて、空を仰いでいるのでした。 そんな様子を弟子たちに馬鹿にされて、一念発起し、月夜に庭に出て行道ぎょうどう
したところが遣や り水みず
に転げ落ちるという始末なのでした。風流な岩の突き出た角に、腰などぶつけて怪我をして寝込んでしまいました。そうなってやっと腰の痛みに少しは悲しみが紛れるのでした。 |
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