明 石
(十五) | 月日が経つにつれて、源氏の君はこの女が可愛くご愛情は深まりつるのですけれど、都の誰よりも大切に思っていらっしゃる紫の上が、遠く離れて不安なお気持のまま、長い年月を過ごしていらっしゃる上に、こちらのことを非常に悪く想像していらっしゃるだろうと思うと、たいそうお可哀そうなので、独り寝がちの夜をお過ごしになっていらっしゃいます。 その間に絵をたくさん集めて、それに心の思いをあれこれ書きつけて、それに紫の上の御返歌を書き込めるような趣向になさいます。その絵は見る人の心にしみ入るに違いないすばらしい感動的な出来栄えです。 どうしてお互いの心が空を行き通じ合うのでしょうか。二条の院の紫の上も、もの悲しくお心の慰めようもなくお感じになられる時々には、同じように絵を描かれて貯めていらっしゃいます。その絵をそのまま御自分の日常の御様子を日記のようにお書きになります。 これから先、一体どうなっていくお二人の身の上なのでしょうか。 年が改まりました。帝が御病気でいらっしゃいますので、世間では帝の御進退をめぐって、いろいろ取り沙汰しています。今の帝の御子
は、右大臣の姫君の承香殿しょうきょうでん
の女御にょうご にお生まれになった男御子です。今、まだ二歳におなりになったばかりで、たいそう御幼少です。 御位は今の東宮にお譲り遊ばすことになるでしょう。 その場合、帝の御後見として政治を執り行うべき人物を、帝が思いめぐらせてごらんになりますと、この源氏の君が、今のような御境涯に沈み、不遇でいらっしゃるのでは、たいそう惜しくて、あってはならないことなのでした。帝はついに母后の御諌言にも背かれて、源氏の君を御赦免ごしゃめんになられるという評定をされました。 去年から大后も御物もの
の怪け にお悩みになられ、様々な不思議な神仏のお告げが次々とあり、世間も不穏でしたので、帝は厳しい御物忌ものい
みなどを数々なさいました。その効験によってか、多少快方に向かわれていらっしゃった御目の御病気までが、この頃また重くおなりになって、帝はいよいよ心細くおなりになりましたので、七月の二十日過ぎに、また重ねて、源氏の君に京へ帰られるようにとの宣旨せんじ
を下されました。 |
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