と、娘がかすかに返歌を言う様子は、伊勢に下った六条の御息所にたいそうよく似ています。 娘はなんの心の支度もなく、くつろいでいたところへ、こうして意外なことが起きてしまったので、困り果てたあげく、近くの部屋の中に逃げ込んで、どう戸締まりしたものやら、こちらからはびくとも動きません。源氏の君は、それを御覧になり、無理にも思いを通そうとはなさらない御様子です。けれども、どうしていつまでも、そんな状態でいられましょう。 とうとう、部屋に押し入り逢ってみると、この娘の様子は、いかにも気品が高く、背もすらりとしていて、こちらが気恥ずかしくなるような奥ゆかしい風情なのでした。
こうまでして無理にも結ばれた深い縁をお考えになるにつけても、源氏の君は、ひとしお娘をいとしくお思いになるのでした。お逢いになられてから、ご情愛もいっそう深まるのでしょう。いつもなら飽き飽きして恨めしく思われる秋の夜の長さも、今朝ばかりは早々と明けたような気がします。人に知られまいとお気遣いなさいますのも、気ぜわしくて、おやさしく心を込めたお言葉を残してお帰りになりました。 後朝きぬぎぬ
の御手紙が、たいそう人目を忍んでこっそりと、今日は届けられました。あらずもがなの良心の呵責かしゃく
のせいでしょうか。 岡の邸でも、こういう成り行きが、なんとか世間に洩も
れないようにと気を遣って、お使いを大げさにも接待出来ないことを、入道は残念に思っています。 こうしてそれから後は、人目を忍びながら時々お越しになります。場所も少し遠いので、途中に自然と口さがない土地の者がうろついていて遭いはしないかと気がねをなさって、ついお通いも控え目になさるのを、娘の方はやはり思った通りだったと嘆いています。それを見て入道も、ほんとにこれから先、どうなることかと心配で、極楽往生の願いも忘れて、ひたすら源氏の君のお越しだけをお待ちすることに心をくだいています。出家の身で、今更になって、娘のことで思い悩んでいますのが、まことに気の毒なありさまです。 |