〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-X』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻二) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/01/09 (土) 

はなの えん
源氏二十歳の春である。二月、紫宸殿ししいでん の左近の桜の花の宴と、三月に催された右大臣邸の藤の花の宴を描いて、源氏と右大臣の娘朧月夜おぼろづきよの出逢いが織り込まれている。非常に短い帖だが、読み応えがあるし、題名にふさわしく華やかな美しい場面がつづく。
桜の宴で例によって、舞や作詩の披露で際立って面目をほどこした源氏は、宴の果てた後、酔心地にそそのかされ、もしかしたらよいすきでもみつからなおものかと、憧れの藤壺のあたりに忍び寄る。藤壺では戸締りが厳重でどうしようもない。向いの弘徽殿こきでん の細殿に行くと、三の口が開いている。女御は宴の後、帝のお側に残って、人がほとんどいない。奥の戸も開いて無用心である。源氏はするりと中へ入って行くと、廊下の向うから若い身分の高そうな女が 「朧月夜に似るものぞなき」 と歌を口ずさみながら歩いて来る。
源氏は女の袖を捕えて、細殿に抱き下ろしてしまい、そこで情交を結んでしまう。女が事の前に人を呼ぼうとすると、源氏は 「わたしは何をしても誰からもとがめられないから、人をお呼びになっても何にもなりませんよ」 と言う、 「帚木ははきぎ 」 にもあったが、自分は何をしても許されるという自信が、いつの場合も源氏を傍若無人にする。
また女の方も声で源氏だと分かるとほっと安心する。源氏と女との交渉は、これまでもほとんどが強姦か強姦未遂であった。朧月夜の場合は、源氏と分かってその行為を受け入れている。
この段階では源氏は女が自分を目の敵と憎む弘徽殿の女御の妹、つまり右大臣の娘で、自分の兄東宮の婚約者だということは知らない。この時、女は自分が誰であるか明かさない。
朧月夜の方では、東宮妃としての未来を、この一件で失うという決心まではついていないのだ。それでも扇を交換してあわただしく別れる。
源氏は右大臣家の藤の花の宴に招かれて、あの姫君の所在をさぐる。物腰そぶりから、後になって右大臣の姫君の一人だろうという見当はつけていたのだ。酔ったふりをして姫君たちのいる寝殿に近づき、そこで源氏はやはりあの女が右大臣の六の君、兄東宮の婚約者だったことを知る。
源氏物語 (巻一) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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