源氏十八歳の冬から十九歳の秋までの出来事で、始めの方は
「末摘花」 と時間的に重なっている。 十月の十日余りに、朱雀院
への行幸がある。その日の催し物を藤壺ふじつぼ
の女御にょうご に見せられないので、桐壺きりつぼ
帝は清涼殿せいりょうでん でリハーサルをして藤壺に見せる。源氏はその日青海波せいがいは
を舞う。藤壺も胸の秘密に苦しみながらも、源氏の舞姿の美しさに感嘆せずにはいられない。 産み月を偽っているので、予定より二月遅れ、二月半ば藤壺は皇子を出産する。恐ろしいほど皇子は源氏に生き写しである。そのことが藤壺に不安と怖れを抱かせる。帝は自分の子と信じて喜び、源氏も早く赤子の顔を見たいと思う。 四月になって皇子は参内する。帝は源氏と皇子が瓜二つなのを無心に喜び、抱いて源氏に見せる。藤壺はいたたまらない気持で汗もそとどになる。 紫の姫君はますます美しくなり、源氏の外出を悲しがるようになる。源氏はいっそう紫の姫君への愛を深め、外出も取り止め、紫の姫君の機嫌を取って暮らすので、葵あおい
の上うえ との仲は冷却してゆくばかりである。 源氏は好色で評判の五十七、八歳にもなる老女、源げん
の内侍ないじのすけ に好奇心を持ち。冗談にからかって誘いをかけると、老女は臆面もなく喜んで誘いに応じようとする。その流し目の目許が黒ずみ落ちくぼみ、髪もほつれて毛ばだっている。二人の奇異な仲の噂を頭の中将が聞きつけて、抜けがけに源の内侍と通じてしまう。 源氏はそれに気づかず、ある夕立の宵に内侍とついに同衾どうきん
する。その直後、二人がうとうとしたところへ、ずっと尾けていた頭の中将が忍び込み、大袈裟に太刀を抜いておどした。逃げようとして、源氏は男が頭の中将と気づき思わず笑い出した。 七月、藤壺は女御から中宮ちゅうぐう
に、源氏は宰相になった。 この帖の圧巻は、桐壺帝が最も愛する二人に裏切られた不倫の子とは知らず、赤ん坊の皇子を抱いて、 「お前とそっくりだ」 と源氏に見せる条くだ
りであろう。コキユの哀れさと滑稽さを、読者は同時に感じさせられる。 藤壺が帝をあざむき通す苦しさに悩まされるのに比べて、源氏の苦悩はあまりにも浅薄である。こうした一方で、末摘花との情事が併行しているほか、色好みの老女と戯れにせよ情交を持つ。もちろん、二条の院の紫の姫君への愛情は日々深まっている。 この大長編の核になる、源氏と藤壺との不倫の証の皇子誕生ということが提出された点で、この帖は特に重要である。 |