〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-X』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻二) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2015/12/31 (木) 

結 婚

男が女と肉体的に結ばれると、男はその翌朝はまだ暗いうちに姿を見られないようにして帰る。家に着くとすぐ手紙を書いて女の許に届ける。
後朝きぬぎぬ の別れであり、後朝の文である。これが女への礼儀で、あと三日間は必ず欠かさず通う。これをおこたると、男は女と寝てみたが気に入らなかったということになり、女は屈辱を受けて、悶死するほどプライドを傷つけられる。
通いしつづけて三日目の夜は祝いのために 「三日夜みかよもち 」 というものを新郎新婦が食べる習慣がある。
それで結婚が成立したことになるが、女の親たちがその結婚を認めると、女の親の家で結婚の披露宴が行われる。それを 「所顕ところあらわし」 という。これではじめて二人の結婚は、正式に世間的にも認められたことになる。
当時の結婚は一夫多妻制度で、夫は妻の婿となると、自分の家から妻の家に通う通い婚であった。
結婚後は妻の親が、婿の衣類から、身の廻りのすべての諸雑費も引き受ける。出世のための賄賂なども、妻の家持ちである。
男は甲斐性で幾人の妻を持ってもいいので、妻たるものは常に捨てられないかという、不安と嫉妬に苦しめられる。
また妻の家が経済的にも身分的にもよくないと、いい婿をとることは難しい。 上流貴族の姫君の最高の望ましい結婚は、みかど の後宮に上って、帝の妃となることであった。ただしこれは姫君の希望ではなく、娘の親たちの願望である。それがかな わなければ、高級貴族の子息の将来出世疑いなしという優良株の公達きんだち を婿にとることであった。
要するに、当時の姫君たちには自分の恋も結婚も選ぶ自由は与えられていなかった。結婚、ほとんど親や兄による政略結婚であった。
源氏物語 (巻一) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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