恋
愛 の 手 順 | 平安朝の貴族社会では、女はみだりに人に顔や姿を見せてはならなかった。男の兄弟にさえ十歳にもなればあらわに顔を合わせるようになしない。 深窓の姫君のまわりには、女房たちがしっかりと守っている。女房たちはまた外部に向かって、自分の仕えている姫たちの宣伝係もつとめる。 女たちは、女房たちの巧妙な口コミ作戦によって、うちの姫君は器量が抜群だとか、才芸に秀でているとか、宣伝する。その噂によって、貴公子たちは、先ず恋文を届ける。恋文は和歌と決まっている。女房たちが、紙の趣味や、文字の巧拙や歌の出来栄えから、男の値打ちを判断する。 返事は女房が代筆でやり、そんなことが何度か繰り返された後、その男が姫君の結婚相手にふさわしいと判断されると、はじめて、姫君が直筆の返事をやる。それも女房にそそのかされ、うながされた上である。 自分の意志を持たず、自己主張せず、周囲のいう通りになることが、上品な姫君の美徳と教育されて来た姫君は恋も結婚も周囲のお膳立てによって動く。 気の利いた男はまず女房を手なずけ、その女房の手引きで姫君の寝所に導かれる。そうなると姫君は抵抗のしようもない。 女房を手なずけるには、もちろん賄賂
がものを言うし、もっと手っ取り早く、男は女房と情交を結び、自分の女として言うことをきかせる。 空蝉うつせみ
の場合は、源氏は女の弟に目をつけ、自分付きの家来として雇い、その少年に、文使いや、女への手引きをさせようとした。そして小君こぎみ
というこの少年とは男色関係になる。 当時、少年愛はこの社会では当り前のことで、罪悪視されたいなかった。声変わりのしかけた小君は、源氏に愛されることを嬉しく思い、喜んで姉への手引きもつとめようとする。 想う女と性的に結ばれる課程を、男たちは愉しみ、女を手に入れる方法に技巧をこらし、一種の遊戯としてそれを雅みや
びやかに練り上げる。 |
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