源氏の君は御自分のお部屋にお入りになって、中将の君という女房にお足などを揉ませてお寝
みになりました。 翌朝は、左大臣家の若君のところにお手紙をお届けになります。やがて届いたあわれなお返事を御覧になるにつけても、悲しみは尽きることがないのでした。 源氏の君は所在なくて、物思いにふけりがちでいらっしゃいます。ちょっとしたお忍び歩きも億劫にお感じになられて、一向に思い立たれなくなりました。 姫君が、何から何まで理想的にすっかり成長なさって、たいそう好もしくすばらしくおなりになられたので、夫婦になっても、もう不似合いでもなくなったと見て取られましたから、それとなく結婚を匂わすようなことを、時々言葉に出して試してごらんになるのですけれど、姫君の方は、まるでお気づきにならないふうなのでした。 所在ないままに、源氏の君はただ西の対で、姫君と碁を打ったり、偏へん
つき遊びなどをなさって、日を暮していらっしゃいます。姫君の御気性がとても利発で愛嬌があり、たわいない遊戯をしていても、すぐれた才能をおのぞかせになるのです。まだ子供だと思って放任しておかれたこれまでの歳月にこそ、そういう少女らしい可愛さばかりを感じていましたが、もう今はこらえにくくなられて、まだ無邪気で可哀そうだと心苦しくはお思いになりながらも、さて、おふたりの間にどのようなことがありましたにやら。 もともと幼い時から、いつも御一緒に寝まれていて、まわりの者の目にも、いつからそうなったとも、hっきりお見分け出来るようなお仲でもありませんでしたが、男君が早くお起きになりまして、女君が一向にお起きにならない朝がありました。女房たちが、 「いったい、どうなすったことかしら、姫君は御気分でもお悪いのでしょうか」 と、そんな御様子に心配していました。源氏の君は、東の対の御自分のお部屋にお帰りになる時、御硯みすずり
の箱を御帳台の内にさし入れて行っておしまいになろました。人の居ない間に、姫君はようやく頭をもたげて御覧になりますと、引き結んだお手紙が枕もとに置いてあります。何気なく取り上げて御覧になると、 |