〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-X』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻二) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/01/13 (水) 

葵 (二)

その頃、賀茂の斎院さいいん もおやめになられましたので、弘徽殿こきでん の大后のお生みになった女三おんなさんみや は、新しい斎院にお立ちになりました。父帝も母后も、とりわけ大切に御寵愛あそばした姫宮なので、神にお仕えする特別の身の上にお変わりになられるのを、まことに辛く思されましたけれど、他に適当な姫宮もいらっしゃらないのでした。
斎院になられる儀式なども、いつもの規定の通りの神事ですけれども、それはもう盛大に催されました。
賀茂の祭の時には、規定の行事の外に、更に付け加えられたことが多く、この上なく立派な見物みもの になりました。これも新斎院の御人徳によるものと思われました。御禊ごけい の日には、供奉ぐぶ上達部かんだちめ などは、定められた人数でしたが、そのお供たちも声望の高い、容姿の美しい方ばかりを選りすぐり、下襲したがさね の色から、うえはかま の模様、馬のくら まで、みな見事に調えられました。
特別の勅令で、源氏の大将の君も、御奉仕なさいます。このお通りを見ようと、人々はかねてから見物の車の支度に気を配っているのでした。
一条の大路は立錐りっすい の余地もなく、怖ろしいほど混雑して賑わっています。道の両側の所々の御桟敷おんさじき には、それぞれ思い思いの趣向を凝らした飾りつけをして、すだれ からこぼれた女房たちの出し衣の袖口の色合いさえ、すばらしい見物みもの なのでした。
源氏物語 (巻一) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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