花
宴 (五) | 左大臣家にも、久しくご無沙汰してしまったと、お思いになるのですけれど、若紫の姫君のことも気がかりなので、慰めてあげようと、二条の院へお越しになりました。姫君は見る度にたいそう可愛らしく成長なさって、愛嬌もあ、才気あふれた性質は、ことに際立っています。何一つ不足な点もないように、ご自分の思い通りに教育してみようとなさるには、打ってつけのお人でしょう。 とは言っても、男君のお躾
けですから、男馴れたところが少しはまじりはしないかと、気がかりなこともないではありません。 留守にしていた間じゅうのお話をしてあげたり、お琴などをお教えになって日を暮します。夕方になってから、源氏の君がお出かけになるのを、若紫の姫君は、またいつもの通りと、恨めしくお思いになります。それでも近頃は、すっかり馴らされていて、前のように聞き分けなく後を追い慕ったりはなさらないのでした。
左大臣家では、女君が例によってすぐにはお逢いになりません。源氏の君は所在なさに、あれこれお考えになりながら、筝のお琴を手すさびにお弾きになり、 <やはらかに寝ね
る夜はなくて 親さくる夫つま
> と催馬楽さいばら
の一節をお謡いになります。そこへ左大臣がおいでになって、先日の花の宴に感動したことをお話になります。 「わたしはこんな老齢になりまして、聖天子の御世みよ
四代を見てまいりましたが、この度のように、詩文の出来栄えが秀すぐ
れていて、舞も音楽も、管絃の調子もすべて整っており、命が延びるような気がしたことはございませんでした。今はそれぞれの道に、秀れた名人たちが、大勢揃っている御時世の上に、あなた様がそれぞれの道にお委くわ
しくて、しっかりお指図なさったからなのでしょう。この年寄りまでが、つい、もう少しで舞い出しそうな心持がいたしました」 と、申し上げましたので、源氏の君は、 「特にわたしが指図したということもございません。ただお役目として、その道の名人たちを、あちこち探してみたまでのことでした。宴の中では何よりも、頭の中将の柳花苑の舞は、実に後代の手本になるだろうと拝見いたしました。まして左大臣御自身が、栄えゆく御世の春を祝われて、あの場でお舞い下さいましたなら、それこそ聖代の面目でございましたでしょうに」 と、申し上げました。 左大臣の子息の左中弁と頭の中将たちも来合わせて、高欄こうらん
に背をもたせて、それぞれに楽器の調子を調えて合奏なさいます。それはたいそう興趣深いことでした。 |
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