花
宴 (一) | 二月の二十日すぎに、南殿
の桜の宴をお催しになりました。藤壺
の中宮 と東宮
の御座所は玉座の左右に設けられ、お二方が参上なさいました。弘徽殿
の女御 は、藤壺の宮がこのように上座にいらっしゃるのを、事あるごとに不愉快にお思いになりますけｒｓど、今日のような盛大な物見の時には、とても引きこもってはいらしゃれなくて、御参列なさるのでした。
この日はよく晴れて、空の風情も鳥の声も気持よさそうなのに、親王
たちや上達部 などをはじめとして、詩文に秀
れた方々は、どなたも、作詩に必要な韻字をいただいて、漢詩をお作りになります。
源氏の宰相
の中将 は、
「春という文字をいただきました」
と、仰せになるそのお声までが、いつもながら、人とは異なって美しく聞こえます。
次は頭
の中将 です。源氏の君の後で、見物の人々にどんなふうに比較されるかと、どんなにか気の張ることでしょうか。見るからに感じもよく落ち着いていて、物の言い方なども堂々として、なかなか立派でした。
その後に続く人々は、皆気おくれがしておどおどした顔色の者が多いのでした。まして地下
の者は、帝 や東宮の御学才がことの外秀でていらっしゃる上に、その道に堪能
な方々が大勢揃っていらっしゃる御時世なので、きまりが悪くて、ひろびろとした晴れやかなお庭に出るのも気がひけます。探題
の詩を作るのはさして難しいことではないのに、困りきっている様子です。
年老いた文章博士たちが、身なりはいたってお粗末ながら、さすがに場馴れしているのを、帝は趣深くお感じになられ、さまざまな人を御覧遊ばすにつけ興深くおぼしめすのでした。
帝は舞楽
などはいうまでもなく、万端ぬかりなく御用意を整えていらっしゃいます。次第に夕陽の傾く頃になって、春鶯囀という舞がたいそう面白く見られましたので、東宮は、源氏の君の紅葉
の賀のおりの舞をお思い出しになられて、挿頭
の花を御下賜になりました。ぜひにと御所望遊ばしますので、御辞退しかねて、源氏の君は立ち上がり、ゆるやかに袖をひるがえるところを一さしだけ、申しわけばかりにお舞になりますが、たとえようもなくお見事なのでした。
左大臣は日頃の恨めしさも忘れて、感動のあまり落涙なさいました。
「頭の中将はどうしたのか、早く」
と、帝が仰せになりますので、頭の中将は柳花苑
という舞を、源氏の君よりも少し念入りに舞われました。こういうこともあろうかと、心づもりをしておられたのか、それはお見事でしたので、帝から御褒美に御衣
を賜わりました。そんなことは、あまり例のないことだと人々は思ったことでした。 |
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