あくる日、命婦が清涼殿に出仕していますと、源氏の君が女房の集まっている台盤所ばんだいどころをちらとお覗きになって、 「ほら、昨日の返事だよ。どうも妙に気になってならないから」 とお手紙を投げ入れられました。他の女房たちは、何事だろうと見たがっています。源氏の君が、<ただ、梅に花の色のごと 三笠の山の少女おとめ
をば捨てて> と、俗謡を口ずさみながら立ち去っていらっしゃったのを、命婦はたいそうおかしく思います。事情を知らない女房は、 「どうなさったの、ひとり笑いなっかして」 と、口々に詮索します。命婦は、 「いいえ、何でもないのです。この寒い霜の朝に、赤い掻練かいねり
のお好きな誰かさんの赤いお鼻の色が、源氏の君に見られたのでしょう。それにしてもさっきの源氏の君の歌のおかしかったこと」 と言いますと、 「まあ、ひどいこじつけをおっしゃるのね。わたしたちのなかには、赤い鼻の人なんかいませんわ。左近さこん
の命婦みょうぶ や、肥後ひご
の采女うねめ でも交じっていたらどうか知らないけれど」 などと、わけの分からないまま言い合っています。 命婦が源氏の君のお返事をお届けしましたら、常陸の宮邸では、女房たちが集まって来て、感心しきって拝見しています。 |