〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-X』 〜 〜
== 源 氏 物 語 (巻二) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2015/12/25 (金) 

末 摘 花 (十二)

二条の院にお帰りになって、おやす みになられてからも、やはり思うことなどめったにかな わない世の中なのだと、お思いつづけになります。あの姫君の御身分の重さを思うと、好きになれないからといって、今更疎略にも扱えないしなどと、心苦しくお考えになるのでした。
あれこれ考えて悩んでいらっしゃるところへ、頭の中将がお見えになりました。
「ずいぶん朝寝坊なさいますね。それにはわけがあろそうに思われますn」
と言いますので、源氏の君は起き上がられて、
「ひとり寝の気楽さ、つい気がゆるんだのか朝寝坊してしまいました。今、宮中からですか」
おおっしゃいます。
「ええ、宮中から下がってその足で来たばかりです。朱雀院すざくいん行幸ぎょうこう について、楽人がくにん舞人まいびと を今日、決められるということを、昨夜承りましたので、左大臣にもそのことをお伝えしようと思って退出してきたのです。すぐまた宮中へ引きかえします」
と、忙しそうにしていますので、
「では、一緒に行きましょう」
と、おかゆ強飯こわいい を召し上がって、頭の中将にもおすすめになりました。御車は二輌つづいて引き出したのですが、一つの車に御一緒に乗られて行きました。
「やはり、とてもお眠そうですね」
と、頭の中将が朝帰りの嫌味を言いながら、
「ほんとに隠し事がたくさんおありだから」
と、恨みがましく言います。
宮中では、いろいろな事が決められる日だったので、源氏の君も終日、宮中にお詰めになっていらっしゃいました。
源氏物語 (巻一) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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