源氏の君と頭の中将は、さきほど聞いた常陸の君の姫君の琴
の音ね を思い出して、あの哀れげだったお住居すまい
の様子も、普通よりは風変わりで趣があったように思いつづけていたっしゃいます。それにつけても、頭の中将は、 「もし仮に、美しくて可憐なあんな荒れはてた所に長い年月住んでいたとしたら、その人を見初めてたまらなくいじらしくなり、さぞ自分は夢中になって、世間の噂になるほど、見苦しく取り乱すことだろう」 などとまで、想像するのでした。 源氏の君が、これほど熱心にお通いになられるからには、とてもあのままではすまされそうもないだろうと思うと、なんとなく妬ねた
ましく、また気がかりでならないのでした。 その後のち
、源氏の君からも頭の中将からも姫君にお手紙などお上げになったようでしたが、どちらにもお返事はありません。事情がわからず気にもなるし、おもしろくもないので、 「これではあまり味気なさすぎる。ああいうわびしい所に暮している人は、もののあわれもよく感じ、はかない草木や、空の景色などを見ても、すぐ歌に詠んでよこしたりして、ゆかしい心ばえが思いやられるような折節もあってこそ、男は心惹かれるものだろうに。いくら重々しい御身分とはいえ、こうまでひどく引っ込み思案なのは、おもしろくないし、体裁も悪い」 と、頭の中将は、源氏の君以上にやきもきしていらっしゃるのでした。例の隠し立てもなさらない遠慮のないお二人の仲なので、 「ところで、あちらからの返事は御覧になりましたか。わたしもためしにちょっと手紙をやってみましたが、見事、無視されてしまいましたよ」 と頭の中将がぐちを言いますと、yはり、言い寄ったのだなと、源氏の君はほそく笑まれて、 「さあ、別に返事を見たいとも思ってないせいか、見たような気もしませんね」 とわざとあいまいにお答えになります。頭の中将は、さては自分だけ無視されたなと、悔しくてなりません。
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