末
摘 花 (六) | 源氏の君は、こんなふうにいつも頭の中将に情事を見つけられるのが忌々
しいけれど、あの夕顔の忘れ形見の撫子なでしこ
の行方は、頭の中将もいっこうに探し出せずにいますので、それだけはご自分の大手柄のように、内心ひそかに思い出しておいでになります。 おふたりとも、ここからお通いになる所がおありでしたが、仲よくからかいあっているうちに、つい分かれにくくなってしまいました。一つ車に相乗りして、月が情趣深く雲に隠れている道中を、横笛を合奏しながら左大臣邸へお越しになりました。 先払いの声もかけさせずに、こっそりと邸の中へお入りになって、人目につかない渡り廊下で、御直衣のうし
をお取り寄せになって、お着換えになります。 その後何食わぬ顔で、今、来たばかりのふうに、御一緒に笛など吹き興じていらっしゃいます。左大臣はいつもの例でそれをお聞き逃しにならず。御自分も高麗笛こまぶえ
をお持ち出しになりました。左大臣はたいそうお上手なので、それはお見事にお吹きになります。 御簾みす
の内でも、音楽に嗜たしな みのある女房たちに、何かとお弾かせになります。 女房の中務なかつかさ
の君は、殊の他琵琶びわ の上手でしたけれど、頭の中将が思いを寄せていられるのを袖にして、源氏の君のほんの時たまこうしておかけ下さるお情けが慕わしくて、そんな関係を拒みきれないでいるのでした。 そのことが、自然隠しようもなくなって、左大臣の北きた
の方かた の大宮おおみや
なども、御気分を損じていらっしゃるのでした。中務の君は心苦しくみっともない気がして、今も淋しそうにふさぎ込んで、物により臥しています。お暇ひま
をもらって、源氏の君とまったくお逢いできない所に、遠く離れて行ってしまいますのも、さすがに心細く思われ、悩みあぐねいているのでした。 |
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