世が明けていくにつれて、少納言があたりを見渡しますと、御殿の造りようや部屋の飾りつけなどは言うまでもなく、庭の白砂さえ玉を敷き重ねたように見えて、朝日に輝くようでした。それを見るにつけ、自分のような者は場違いな感じで気おくれしますが、こちらの対にはどうやら女房などはお仕えしていないようでした。たまのお客などを接待する対の屋なので、男の家来たちが、御簾
の外に控えているだけです。どうやら昨夜女君をお迎えになったようだと、ぼんやり聞いた邸の者たちは、 「どなたなのだろう。なみなみのお仲ではないのだろう」 と、ひそひそ話を囁いています。お手水ちょうず
やお粥かゆ など、源氏の君と姫君はこちらの対でお使いになります。 日が高くなって源氏の君は起きていらっしゃって、 「女房がいなくて不便でしょうから、しかるべき人たちを、夕方になってからお呼びになるのがいい」 とおっしゃって、東の対に女童たちを呼びに、人をおやりになりました。 「小さい女の子だけ、特別に来なさい」 とのことでしたから、たいそう可愛らしいなりをした四人の女の子が参りました。姫君はお召物にすっかりくるまって寝ていらっしゃるのを、無理に起して、 「こんなふうに、いつまでも沈み込んでわたしを困らせてはいけません。真心のない人が、こんなに心からお世話するものですか。女というものは心が柔和で素直なのがいいのですよ」 など、もう今から教え躾しつ
けていらっしゃいます。姫君の御器量はよそならが遠くから見たよりも、近くで見た方がはるかにお綺麗でした。 源氏の君はやさしくしたしく姫君とお話になりながら、面白い絵や玩具などを、東の対に取りにやらせてはお見せになり、姫君のお気に入りそうなことをなさいます。 姫君もしだいに打ち解けて、ようやく起き出して絵などを御覧になりました。濃い鈍色にびいろ
の喪服の、柔らかくなったのを着て、無邪気に笑ったりして坐っていらっしゃるのがとても可愛らしいので、源氏の君もつい微笑んで御覧になっていらっしゃいます。 源氏の君が東の対へお出かけになりましたので、姫君は部屋の端近くにお出になって、はじめて庭の木立や池の方などを覗いて御覧になりました。霜枯れの前庭の景色が絵に描いたように美しくて、見たこともない四位や五位の人々が、黒や緋ひ
色の袍ほう を着た姿で入り交じって、ひまなく出たり入ったりしています。ほんとに素晴らしい所だとお思いになります。御屏風などのたいそう面白い絵を御覧になりながら、いつの間にやらすっかり気が紛れていらっしゃるのも、他愛にないことでございます。 |