「明け方、あそこへ行こう。車の支度はそのままにして随身一人か二人待機させるように」 とお命じになります。惟光は承って帰りました。源氏の君は、 「さてどうしたものか。これが世間に知れたら、いかにも好色めいた振舞だと取り沙汰されるらろう。せめて相手が恋のわきまえもある年頃だったら、女と心を通わせた上でのことと、世間も想像してくれるだろうし、そんなことはよくある例なのだ。しかしこんな状態で盗み出せばもし父宮に探し出された場合でも、体裁が悪く、さぞきまりの悪いことだろう」 などと思い悩まれますが、そんな逡巡で、この機会を逃し姫君を見失ったら、悔やんでもとりかえしがつかないと、まだ夜の明けぬ暗いうちにお出かけになられました。 姫君は、例によってしぶしぶと、打ちとけないままで無愛想です。 「二条の院に、どうしても片づけねばならない用事があったのを思い出しましたから、出かけます。すぐ帰って来ますから」 とだけおっしゃってお出かけになりました。 女房たちも気がつきませんでした。御自分のお部屋で御直衣
などお召替えになります。 惟光だけを馬に乗せてお供にお連れになりました。 姫君の邸の門を叩かせますと、事情を知らない者が開けましたので。お車をそっと門内に引き入れさせて、惟光が妻戸を叩いて咳ばらいしました。少納言が惟光だと察して出て来ました。 「ここに源氏の君がおいでになります」 と言いますと、少納言は、 「姫君はもうお寝みになっていたっしゃいます。どうして、こんな夜更けにお越しになられたのでしょう」 と、どこか女の所からの、朝帰りのついでだろうと思って言います。源氏の君が、 「兵部卿の宮のお邸へお移りになるそうですが、その前に姫君に申し上げておきたいことがあって」 と仰せられると、 「どういうお話でございましょうか。さぞかし、はきはきしたしたお返事を申し上げることでございましょうよ」 と、皮肉を言って笑います。源氏の君がかまわず内にお入りになりましたので、少納言はひどくきまりが悪くて、 「ほかに人もいませんので見苦しい年寄りの女房たちが、行儀の悪い恰好で寝んでおりますので、困ります」 と言い訳を言います。 「まだ姫君はお目覚めではないだろうね。さあ、起してさしあげよう。こんな美しい朝霧も知らないで寝ていらっしゃるなんて」 とおっしゃりながら、すっと御帳台の中にお入りになってしまわれたので、少納言は
「あれ」 という閑もありません。 |