若 紫
(十八) | 七月になって、藤壺の宮はようやく参内なさいました。帝はお久しぶりではあるし、御懐妊のこよもあって、ひとしお藤壺の宮をいとしくお思いになり、御寵愛は限りもなく深まるばかりでした。藤壺の宮は少しお体がふっくらなさって、御気分がすぐれないまま、少し面やつれ遊ばした御風情が、これはまたこれで、ほんとうにまたとなはないお美しさなのでした。 帝は、例の通り、明けても暮れても藤壺の宮のところになかりつききりでいらっしゃいます。そろそろ管絃の御遊びなども興深くなる秋の季節なので、源氏の君も絶え間なくお召しになり常にお側にお引きつけになられて、琴や笛などを、あれこれと演奏なさるようお命じになります。 源氏の君はそういう時も、お心の内を懸命に秘し隠していらっしゃいます。それでも堪えがたいお気持ちがつい漏れそうな危うい折々もあっいぇ、それをお感じになる藤壺の宮も、さすがに切ない秘め事のさまざまを、苦しく思いつづけていらっしゃるのでした。
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