「もしかしたら、何か見つけ出せることもあろうかと思いまして、ちょっとしたついでをつくって、あの家の女房に恋文などやってみましたら、即座に、書き慣れた筆つきで返事が返ってまいりました。どうやら、満更でもない若い女房たちがいるようです」 と惟光は申し上げると、 「もっとその女に言い寄ってみることだね。女たちの正体をつきとめないことには、残念だからな」 とおっしゃいます。あの雨の夜の品定めでは、頭
の中将ちゅうじょう が下の下の身分と軽蔑して問題にもしなかった住居ですけれど、そんな中から思いがけなく、悪くない女を見つけられでもすればどんなに奇蹟のように思うだろうと、お心が弾んでいらっしゃるのでした。 ところで、あの空蝉うつせみ
のように衣だけを残していった女が、情けないほど冷淡だったのを、この世の女とも思えないと思い出されるにつけても、もし素直になびいていてくれたなら、女には気の毒な過失をつい犯してしまったということにして、済ませてしまっただろうに、小癪にも二度も女に振られて、負けたままで終りそうなので、このままではひっこみがつかず、口惜しさのあまりお忘れになることはないのでした。 こういう平凡な身分の女にまでは、以前なら思いをかけられたこともないのに、いつかの雨の夜の品定めの後からは、好奇心をおそられる様々な階層の女たちがあるとおわかりになって、ますますあらゆる女に興味と関心を抱かれるようでした。
疑いもせず、真正直にひたすらお逢いする日をお待ちしているような、もう一人の若い女のことも、可哀そうだとお思いにならないことはないのですが、空蝉の女がそ知らぬ顔で、自分と継娘の一部始終を冷ややかに見ているのだろうと思うと、恥ずかしくて、まず、空蝉の本心を見とどけてからと思いあぐねていらっしゃるうち、伊予いよ
の介すけ が上洛して来ました。 伊予の介は都に着くなり、何より先に源氏の君のお邸へ御挨拶に参上いたします。船路のせいでやや日焼けして黒くなった顔に、旅やつれをにじませた伊予の介は、ずいぶん無骨でいかつい感じです。それでも、賎しくない家柄に生まれ、容貌などは老けてはいても、端正に整っていて、いかにも堂々とした風格を具えています。 |