小君が車の後ろに乗って、二条
の院いん にお着きになりました。 源氏の君は小君に、今夜の一部始終をすっかり話しておやりになり、 「お前はやはり子供で役に立たないね」 と、お叱言こごと
をおっしゃって、あの女のことを爪弾きしてお恨みになります。小君はお気の毒で、言葉もありません。 「あの人にあんまりほどく憎まれてしまったので、つくづく自分に愛想がつきはててしまった。せめて物越しにでも優しい言葉くらいかけてくれたってよさそうなものなのに。わたしは伊予の介にさえ劣っているというのか・・・・」 などと心外そうにつぶやかれます。 それでもあの女の脱ぎ捨てていった薄衣うすぎぬ
の小袿うこうちき を、恨みながらもさすがにお召物の下に引き入れてお寝になられるのでした。 小君を傍らに寝かせて、しきりに冷たい女のことで恨みごとをくどくどおっしゃりながら、また一方では、小君におやさしい言葉もおかけになるのでした。 「お前は可愛いけれど、つれないあの人の身内だから、いつまでも可愛がってやれそうもないね」 などと、真顔でおっしゃるので、小君はほんとうに辛がって、しおれています。 しばらく横になっていらっしゃいましたが、いっこうにお寝になれません。 硯すずり
を急いでお取り寄せになって、お届けになるお手紙をわざわざ書くというふうではなく、さりげなく懐紙かいし
に手習いのようにお書き流しになられるのでした。 |