色はぬけるように白く愛らしくて、むっちり肥えた、背も高い女です。頭
つきや生えぎわがくっきりとしていて美しく、目もとや口もとに愛嬌があふれ、はなやかな顔だちをしています。髪はふさふさと豊で、そう長くはないけれど、頬に垂れた髪の端や、肩にかかったあたりがすっきりとさわやかで、どこといって欠点も見えず、まずは美人に感じられるのでした。 なるほどこれなら親の伊予いよ
の介すけ は、さぞ世にも稀な娘と自慢に思っているだろうと、源氏の君は興味を覚えて御覧になります。 この上は心持にもう少し、しっとりとした落ち着きを加えて欲しいものだ、などちらっとご覧になっただけでお感じになられるのでした。どうやらどこどこの才気はあるらしく、碁を打ち終わって、だめを詰めるところなども機敏そうな感じで、陽気に騒々そくはしゃいでいます。奥の人はひっそりと静かに落ち着いて、 「ちょっとお待ちになって、そこは、持じ
でしょう。こちらの劫こう を先に片づけましょう」 などと言いますが、相手は、 「いいえ、今度は負けてしまいましたわ。隅のここと、ここは何目なんもく
かしら、どれどれ」 と、指を折っては、 「十、二十、三十、四十」 と、目を数える養子は、す速くきびきびしていて、音に聞こえた伊予の湯桁ゆげた
の数の多さでさえ、さっさと数え上げてしまいそうです。ただ少々品がたりないように見えます。 小柄な人は袖ですっかり口元をかくし、顔をあらわには見せないようにつつましくしていますけれど、源氏の君がじっとお目をこらしていらっしゃいますと、だんだんその横顔が見ててきます。 瞼まぶた
が少し腫れぼったく、鼻筋などもすっきりせず老けて見え、つややかさもありません。どちらかといえば器量のよくない方ですが、その欠点をたいそう上手につくろっていて、もう一人の器量好の若い娘よりは、心の嗜みが深そうで、誰の目も惹きつけそうな様子をしています。 朗らかで愛嬌のある娘は、いっそう得意そうにはしゃいで賑やかに笑いさざめいている様子ですが、はなやかで色っぽく、こちらはまたそれなりになかなか魅力があります。
源氏の君は、蓮っ葉な女だとお思いになりながらも、浮気っぽいお心は、この女もまた無関心に見過ごせないようでした。 これまで愛されてこられた女ひと
たちは、誰もみな 源氏の君の前では気どっていて打ち解けず、いつもとり澄ました姿ばかりしか御覧になりません。こんあに油断した無防備な女の様子を覗き見したりなさることは、これまで経験なさらなかったことなので、もっと長く見ていたいとお思いになります。 それでも、どうやら小君が出てきそうな気配なので、そっとその場から離れておしまいになりました。 さりげなく渡り廊下の戸口に、前から居たように寄りかかっていらっしゃいます。 そこへ小君が戻って来て、こんな所に長くお立たせしてもったいないと思いながら申し上げました。 「珍しい客が来ていて、姉の近くへ寄りつくことも出来ませんでした」 「それでは、今夜もこのまま帰そうとするのだね。それはあんまりひどいじゃないか」 とおっしゃるので、小君は、 「どうしてそんんあことを。客が、あちらへ帰りましたなら、何とか方法を考えます」 と申し上げます。 それでは、ななんとかなりそうな女の様子なのだろう。この子は子供ながらも、状況判断が出来るし、人の顔色も読めるほど、しっかりしたところがあるからとお考えになるのでした。
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